第61話

「お母さん猫と兄弟たちの…ご供養ってお願いできますか?」







「確とうけたまわろう。うん。すぐにしておやり」






「はい」






和尚様の言いつけもあり、若いお坊さんは丁寧にお辞儀をして、母猫を綺麗な布にくるんでそっと連れて行ってくれた。








手袋を外して、とりあえずはほっと息を吐く。







そして子猫はどうだと思って振り向くと。








ぎょっとして時が止まったように感じた。



 











「…まぁ、なんと小さいことでしょう。よしよし。いい子ね」









「元気に鳴いてる。よかったな」













明らかに身分が高そうな綺麗な小袖をきた若い女性と、直垂姿の若い男性。







子猫を抱いて笑い合う二人は、とんでもなく美男美女。







髪を高く結った若い男の方には腰にえげつなく立派な刀が差してあり、ちらりと見えた刀にあしらわれている家紋に一気に血の気が引く。


 






……島津家の十文字だ、あれ。






 


島津家は宗家の他に分家がたくさんあり、皆家紋は同じだから誰かまでは俺の知識では分からない。








だが島津の家紋の時点で、身分の高い人物には間違いがないだろう。








処置に精一杯で、取り出した子猫を相手も見ずに渡したのがいけなかった。









「す、すいません!あとは、俺が!」









慌てて子猫を奪おうとすると、目の前に男が飛び込んでくる。









「若に近付くではない!この胡乱うろんな医者め!」








…うろんって。






そう心の中で突っ込むが、諦める。






まぁ、確かに胡乱以外の何者でもないわな。







格好も、普通に仕事着である黒いスクラブにパーカーだし。



 





…てか医者には見えたのか。








すると、若、と呼ばれた人が徐ろに口を開いた。









 

「よせ、忠続。この子猫達の恩人だぞ」








「…はっ」












家臣が彼に一喝されて、すかさず引き下がる様がこの目の前の美男の地位の高さを物語る。


 








「…すまない。私の臣下の者がとんだ無礼を」









「いえ…!そんな!」









反射的に応えたが、ふと考える。




 






ん?







……若?











「この子たちを助けてくれたこと、私から礼を言う。いくら猫とて人と変わらぬ尊い命故な。…ありがとう」










ありがとう、と。







この人は素性も分からない怪しい俺に、綺麗に笑う。







その清廉さに、思考が止まって目が釘付けになる。








「猫のお医者様。ありがとうございます。私からも、お礼を」








隣の女性も綺麗な所作で頭を下げてきて、両手を振っていやいやと慌てて謙遜する。







「いや、仕事なので…」








すると後ろから思いっきりお尻を叩かれた。










「痛っ…!!」




 





「たわけ!頭が高い!







——————————島津の若様じゃぞ!!」










それに、時が止まった。

























「島津家御当主の島津久保様じゃ!」

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