第59話

「あぁ…かわいそうに…」






「真にのう…」







部屋を出ると、お坊さんとどこぞの武士が集まっていてすぐに分かった。







「もうだめだの…。無念であろう…」






和尚様が数珠をじゃらじゃらとして、念仏を唱え始めている。






お坊さんたちの間から見えたのは、ぐったりと横たわる猫だった。







「……あの…どうしたんですか…?」







仕事柄、普通に聞いてしまう。









「お、おぉ…。身籠っておった猫が産気づいたのじゃが…」







それに、考える。







「お母さん…いつまで動いてました?」






「いや、ほんの今までです」







若いお坊さんが動かない母猫を優しく猫を撫でている。






こそこそと割って入ると、瞳孔を確認する。









そして、もうだめだなと心の中で思う。








出産は動物も人も命懸けだ。








触れると、まだ温かい。








だが、もう…命の灯火は消えている。










「もうすぐ生まれるはずだったのにのう。



生まれずして死にゆくほど可哀想なものはない…」












だれかのそんな言葉に、はっとする。






そして瞬時に、助けるか、と思った。










「…赤ちゃん…助けましょうか?」










呟くと、その場にいた皆が怪訝そうな顔をしている。







「…何と?」







和尚さんの声を聞きながら、母猫のお腹に触れる。



 



まだ、お腹の胎動は感じる。






…いけるかもしれない。













「子猫、助けられるかもしれません!」













叫んで、そういえばと思い出す。







俺の傍に落ちていた往診バッグをご丁寧に俺と一緒に寺の中に届けてくれていたらしい。






走って部屋に戻って俺の枕元にあったそれを引ったくって戻る。







これなら、大体の外科的な処置が出来るくらいの器材が入っている。







「な、何をする気じゃ?」







聴診器まであって、ラッキーと思う。





急いで聴診するけど、残念なことに母猫の心拍は感じられなかった。









「残念だけど母猫はもう死んでしまっています。…なのでお腹を開きます」









首に聴診器をかけながら言った俺の言葉に、この場がざわついた。








「…なに?!」







「…腹を…開く?!」









入っていた滅菌手袋を手早くはめながら異様なものを見るように驚いたような声が上がる。







そりゃそうだろうなとも思うが、そんなことは構っていられない。








「急ぎます!どなたかお湯持ってきていただけますか?それと綺麗な布!」








「そなた…医者か?」








誰かに尋ねられるけど、時間がない。








「獣医です。獣の医者。猫の医者!」

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