第57話

目を開けると、高い天井がぼんやりと視界に入る。






何度か瞬きをすると、世界がはっきりしてきた。







…どこだ、ここ。








なんて思って、一瞬で覚醒した。











「タイムスリップ!!!!」










叫んで起き上がると、軽い着物のようなものがかけてある。






それがぺろりと剥れると、遠くから人の声がした。








「おや。お目覚めかの?」








そんな声と共に人影が見えてどきりとする。







すると身なりからして多分、この寺で一番偉そうな僧侶が入って来た。






だけど。


 




その腕には猫が抱えられていて、凝視する。

 






…猫が。












「…大事ないか?」








「…あ…いえ、はい…すいませんあの…」








しどろもどろに答えて慌てて正座をすると、近くにいた若いお坊さんが湯呑みを差し出してくれた。

 







「…ありがとうございます。いろいろと…」







そうペコペコと頭を下げると、和尚様はなんでもないことのように笑った。







「なんの。寺とはこのような場所。気にするでない」








そう笑ってくれて、会釈して湯呑みの中を覗き込む。








…お茶。






至って、普通の。









「若様の側近の方が形相を変えて寺に走ってこられましてな。驚いたのなんの」








そんな言葉を聞きながら恐る恐るお茶を口に含む。






味も至って普通のお茶で、正直ほっとした。








「ご面倒をおかけして…本当にすいません」










そういえば。






俺を助けてくれたあの人は、誰だったのだろう。






まだ若そうだったけど。






「あの…」







「何じゃ?」








「……若様…って…どなた…ですかね?」








そう聞きながら、湯呑みをぼんやりと見つめる。





確かになんか身分高そうな感じはした。





柔らかい物腰と雰囲気に。







すると和尚様が心配そうに呟いた。

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