第50話

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今から記すことは、全て…真実。









俺の身に起こったこと全てを…ここに書き記しておこうと思う。









その400年の時を越えた奇跡を





————————ただ忘れたく、ないから。



















 










令和5年 9月8日。鹿児島市。








まだまだ灼けるよう厳しい暑さが続く。











「…大丈夫ですね。赤ちゃんも元気」







聴診器を耳から外して、肩にかける。






子猫に母乳をあげている母猫の頭を撫でた。








「先生!ありがとうございました!初めてのお産で帝王切開になったから退院しても心配で。来ていただけてよかったわー!」






「お大事に。何かあったらまた病院に連絡くださいね」







そう笑って、車のドアを閉めた。




 




山本 匡輝まさき。 




26歳。





大学の獣医学部を卒業して、獣医師として3年目。




子供の頃から猫が大好きで獣医になった俺は、まだまだ下っ端なため大変である往診を押し付けられまくっている。




 




今日の往診は、数日前に帝王切開をして退院した猫の様子を見に行くだけのもの。






…にもかかわらず、俺の用心深い性格…もといビビリな性格から、看護師達に引かれるほど無駄に入れておいた薬やら外科器具、そしてついには麻酔薬まで入れていた往診バッグを助手席に放り込む。







そして聴診器を首から外してエンジンをかけると、車のエアコンから涼しい風が吹いてきて、はぁ…と息を吐いた。








「…終わった…」









もともと今日は半休で、病院に戻りカルテを書けばすぐに自由の身。







だから今から病院に戻ろうと思ったけど、その前に、と。






俺はポケットから取り出したスマホで地図を開いた。














俺にはあと1つ、好きなものがあって。







それは。








「…鹿児島城もいいな…久々行ってないもんな…」








めちゃくちゃ、歴史が好き。






猫と張るぐらい戦国史が好きで、もちろんこの鹿児島の戦国大名の島津家なんて崇めるレベルで大好きだ。




 



忙しい仕事で、すさむ心の癒やしだった。










残念なことに彼女なんていないから、一人で行くしかない。






まぁ、最近はそれでもいいと思ってる。






決して、負け惜しみではないと自分に言い聞かせる。








「…いや、仙巌園かな。まずは癒やされないと」







自分の一番の癒やしスポット、とこっちも勝手に崇めている。  







それが、仙巌園。

 


 



仙巌園は、江戸初期の薩摩藩2代目藩主の島津光久が建てた、島津家の別邸だ。






そこは桜島が真正面に見え、鹿児島随一の観光名所になっている。







その仙巌園の中に鎮座する『猫神社ねこがみしゃ』。










俺が歴史好きになったきっかけの場所。








俺の一番好きな場所。

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