第38話

「申し訳ありません…」




 




なんと、己の惨めなことだろうか。







小さく謝って恐る恐るその顔を見ると、久保様は驚いたように私を見ていた。








「これで本当に…貴方様にすべてを背負わせてしまいます…」








島津宗家のすべてが。







そして今日からその肩に島津宗家の当主という肩書がのしかかってしまう。








父上の命で、意に沿わず私と夫婦になったばかりに。







嬉しかったのは、私だけ。







この御方にとっては…寧ろ望まぬことですらあるかもしれないのに。










「…本当に申し訳なく…。なので…どうか一つだけ、お聞き届けくださいませ」





 




それならば。







少しでも…解放、して差し上げなければ。







 


久保様の顔を見ていられず、私はそっと床に手をついて顔を伏せた。





 






「…もし…御心に決めた御方がいらっしゃるのであれば、私のことは気にせず側室にお上げください。そうでなくても、これからお出来になったとしたならば尚の事です。…貴方様は島津宗家の当主。…誰に咎立てられることもありませぬ故」









 


前に聞いた時ははぐらかされてしまった。







それは、本当にそういう人がいるから、言えないからだったのかもしれない。







考えながらどうしてか泣きそうになって、俯く。







…惨めで。








すると久保様は、暫く何か考えていたようだけど、静かに口を開いた。


  

























「—————お断り致します」

  


























はっきりと言い切られた思わぬ言葉に、はっとして顔を上げると。







どうしてか彼は、少し寂しそうな表情で私を見ていた。








「…やはり…何か勘違いをさせてしまったようですね。あの時私がはっきり言わなかったから」




 






だけどその声はただ優しい。







あの時とは、きっと京で父上から婚儀の話をされた時のこと。







そんな私を見て彼は静かな声で呟いた。









「…申し訳ありません。私はずっと…貴女にそんな思いをさせてしまっていたのでしょうか」







 



思わぬ言葉に目を見開く。






    


久保様は笑わずただ私を見つめている。


 





なんと答えていいのかわからなくて、ただその言葉の意味を考えていると。








暫く黙っていた彼は、不意に視線を外して口を開いた。










「…京でのあの時…貴女は婚儀の相手が私で……嬉しいと言ってくれましたよね」


 







私かられたその瞳は、爛漫に咲き誇る桜を愛でる。







「…はい」




 



 


あの日を思い出して、私はただ頷く。








すると久保様は柔らかく微笑んだ。

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