第37話
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月の明かりが眩しいほどに明るい。
白い着物に身を包み、灯りを灯された部屋に入るが落ち着かない。
落ち着ける、訳が無い。
褥の横に座っていたが、じっとしていられなくて部屋を出て縁側に立った。
無事に婚儀は終わって、ほっとした。
だけど、これから…夫婦の契を交わす。
…緊張、している。
月明かりに浮かぶ桜をぼんやりと見つめる。
桜は花の盛りで、さわさわと夜風に揺れても散ることはない。
綺麗、と思って手を伸ばしかけると。
背後から足音がしてびくりと肩が跳ねた。
「…ここでよい。ありがとう」
久保様は縁側にいた私に一瞬驚いたようだったが、灯りを持っていた家臣を下がらせる。
そして私の前にやってくると、この空間に二人きりになり静寂に包まれた。
緊張が伝わってしまいそうで。
慌てて正座をして平伏す。
すると久保様は私の前に片膝をついた。
「…お待たせしてしまいましたか?」
その声が優しくてそっと顔を上げると、白い寝間着を着流しているその姿に緊張が増す。
高く結っていた髪も下ろし、肩あたりで緩く結われているその様に、歳下とは思えぬ色香を感じて思わず目を逸らした。
「いえ…」
「…よかった」
ふわりと笑った笑顔に目を奪われる。
女ならば誰もが見惚れそうな笑顔を浮かべるこの人が。
今日から私の旦那様だと思うとただ胸が高鳴るのに。
なんでこの人は緊張すらしてないのかしら。
落ち着き払っていてむしろ余裕さえ感じさせる。
そんなことを考えていると、久保様はぽつりと呟いた。
「…そんなに怖がらないでください。…何もしません」
え、と思って顔を上げると、視線が絡み合う。
それに恥ずかしくなって俯くと、その低い声が静かに降ってきた。
「宗家の姫君に…そんなことできるわけがないではないですか…」
私が俯いているから彼の表情はわからないけど、その言葉がずしりと胸に重くのしかかる。
そう、だった。
久保様は本意ではない。
この婚儀。
…この春を指折り数えたのは、私だけ。
それはまるで…
————————恋する乙女のように。
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