第33話

ふと、漸く交わした言葉だと思って口を噤む。





 

久保様も同じだったようで、お互いにはっとする。







「…久しぶり、ですね」








久保様のその言葉に、私は何だか気恥ずかしくて小さく笑う。






するとずるずると引き摺られている久規殿がバタバタと抵抗していて、どっと皆が笑う。






「若ぁぁぁ!!」






「あーすまんすまん。間違えた俺が悪かった」







号泣している久規殿を、忠続殿が適当にあしらっている。




 



すると大きな声が上がった。







「どれ!ではわしも手伝おう!」






その声に、次は久保様がぎょっとしている。






誰かしら、と思う前に久保様が叫んだ。







「…父上!!」








父上…。






ということは、義弘叔父上。








「なんじゃ久保。お前の側近のこの為体ていたらくはお前の責任。引いては父であるわしの責任。手伝うぞ忠続!」








どかどかと歩いていくと、その剛腕で久規殿を引きずっていく。




 




「忝のうございます!御屋形様!」







「うむ!どこに連れて行く?かわやか?うまやか?」







きっちり平伏した忠続殿に、わはは、と笑っている義弘叔父上が愉快で、周りの家臣たちと同じように思わず笑ってしまう。







いえ、もう義父上。






 




「義弘、忠続!馬が可哀想ゆえ厠にしておけ!」







父上が笑いながら叫ぶ。








「承知致し申した、兄者!!行くぞ忠続!」






「はっ!」









泣いていたかと思ったらいつのまにか爆睡している久規殿を、問答無用で引きずっていく。






それに、どっと皆が湧く。






家臣たちと同じ立場に立ち、家臣達と笑い合うのが…義父上様の良いところだと私も知っている。






それ故、多くの家臣に慕われている。








父上も、お酒を飲みながら楽しそうに笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る