第30話
母屋に向かってゆっくりと歩く。
幼い頃から住んでいる筈なのに、何だか見知らぬ城のような気がするのはどうしてだろう。
確かに普段はこんなにも島津十文字の幟が掲げられていることもなければ、はためく音もしないし、パチパチと燃える松明もこんなにない。
廊下の端々で平伏す家臣を見て、目を伏せる。
…………緊張、しているからだわ。
私は…指折り待ち侘びた春だった。
だけど…彼はどうだろう。
きっと違う。
久保様は、きっと本意ではない。
私のような…宗家の娘という、家名ばかり大きく、何の取り柄もない女との婚儀など。
全ては島津家のため、家臣達のため。
島津宗家の当主である父上に命じられたから…それだけ。
そう思ったとき、ちくりと胸に痛みが走った。
「姫様、御到着にございます」
そう言ったのは、久保様の側近…
伏し目がちに部屋に足を踏み入れると、一斉に平伏した島津家の老中・重臣達。
それを見て、静かに白打掛を翻し頭を下げた。
「姫、さぁ…」
息が止まりそうな程の緊張に呑まれ、誰かの声に恐る恐る顔を上げると。
正装をした久保様も上座で平伏していた。
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