第20話

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どれくらい経っただろうか。








ぼんやりと日が長い夕暮れの空を見上げていると、久保様と話し終えた父上が縁側に座っていた私の前にやってきた。










「…父上…」








父上の表情を見ても、どんな話になったのかはわからない。






さすが武家の当主というべきなのか、あまり表情が読めないのは前々から。










私の隣に立って腕を組んだ父上は、ふう…と息を吐いた。




 




「…驚いたか?」









この婚儀と家督相続の話。








久保様の答えを言う前に聞いてきた父上に、私はふっと笑う。











「はい。…とっても」









私は艶やかで色濃い夏の空をそっと見上げた。









「…せめて義姉弟ぎきょうだいか思っておりましたので」








久保様が宗家の惣領となるのは島津家中において暗黙の了解のようなものだったから、今日父上が正式に指名しても、さして驚きもしなかった。







ただ、父上の養子という形でだと思ってはいたから。


 





そうなると、久保様は私の義弟になると。







でもまさか私達を夫婦として添わせようとしていたとは…微塵も思わなかった。









「…この一年見ていたが…わしが思ったより気もうていたようだったからの。お前達」








少し笑いながら言った父上をじとりと睨む。






だけど父上は、娘のそれに屈することなく明るく笑った。









「…そなたは子供の頃以来だっただろうが…わしはちょくちょく会っていてな。あれは聡く、そして優しく立派になった」









いつの間にか夕方になっていて、緋色の空が夏の風を誘う。







それを頬に感じると、父上は私に背を向けて庭に降りた。


























「——————くだんの件…承諾、してくれたぞ」













   






それに、私はただ父上の背中をただ見つめる。







私が幼い頃からいつも、強大な島津を背負っていた大きい背中。







するとその背中から言葉が落ちた。











「なんじゃ。不服か?…あの男では」










私の顔を見ているわけでもないのにそう聞いてくるのはさすが私の父親だと思う。








不服などではない、けれど。








「…いえ…」








「…よい。この父にお前の思うことを言ってみなさい」









やはり見越したように言ってくる父上の背中に、小さく笑う。









今、父上のその広い背中にあるもの。







その全てをそのまま久保様の背に背負わせてしまうのかと思うと。








どうしてかなんと答えていいかわからなくて俯く。










それでも。







夫となるのが気心の知れた従兄弟である久保様と知り、ほっとしたのは事実。







見知らぬ土地で、見知らぬ人に嫁げと言われると思っていたから。









「…ただ…」


 








小さく言った私に、父上は静かに振り返る。

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