第18話

「————————お前に家督を譲る」



  




















思わぬ言葉に、時が止まる。


   






久保様も私も言葉を発さず静まり返って、蝉の声だけが響いた。
























「亀寿を娶り…




—————この島津宗家の家督を継げ。…久保」











 

 






ふわりと風が吹き込み、夏の薫りがこの空間に広がる。









ちらりと久保様を見ると、真剣な顔のままじっ…と父上を見つめていた。










「わしと義弘とで秘密裏に決めたことじゃ。殿下もお許しになった。なかなか気骨のある若者で殿下も気に入った、と。…謁見の時に何かあったのか?」








久保様はちらりと私をみる。







きっと、私をだしにしてしまってすまないと久保様が謝ってきた、あの。








島津の威信を守るために言ったあの言葉。








何も無いと、私から言うべきかしら。








「…いえ。特には」

 


 





私が口を開く前に、揺らがず、静かに答えた久保様を父上はしばらく見つめていたが、次にはふっと笑った。









「…そうか。なかなかにお前を気に入っておられたからな」










父上はまた視線を外し、真夏の空を見上げた。









「義弘の嫡男ならば順当。だが何よりもお前にはその器量もある。…このわしの目に狂いはないぞ」











久保様は座ったまま静かに父上の方に向き直ると、静かに聞いた。












「……真に……私にとお考えに…?」













彼の纏う雰囲気が一気に大人びて見える。    








250万石とも言われた九州全土を手中にしかけた、我ら島津家。







その頂点に立つのが父上であり、久保様がその跡取りとなると言うこと。









「…無論じゃ」









「……しかし…私にはとても…」



 










とても、務まらない。







伏し目がちに言った彼に、父上はふっと柔らかく笑う。










「……お前はそう申すだろうと思っていた」











そして父上は上座ではなく、久保様の真横に座り向き直った。








「…よいか久保。これは何もお前が義弘の嫡男だから、ではない。お前はお前だ。私がその器量を見て決めたことだ。島津の惣領そうりょうに…相応しいと」

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