第13話

降り止まない雨音の中、謁見の部屋を出て前を歩く背の高い後ろ姿を見つめる。














…昨日は全く、気が付かなかった。
















幼い頃の記憶なんて曖昧なもので、ましてや年頃の男性は一気に大人びる。







島津の家臣が詰めている部屋に来ると久保様は家臣から刀を受け取った。







「…あ、あの…」







何から言っていいか分からず俯くと、久保様は腰に刀を差しながら振り返った。







「お久しぶりです、亀寿殿。…まぁ昨日ぶりといえばそうなるでしょうか」








その笑顔は、先程の謁見の時の雰囲気とはがらりと変わりただ優しい。







「申し訳ありません…!。昨日は全く気が付かず…。まさか久保様だとは…」







慌てて打掛を翻して平伏すと、驚いたように久保様も腰を落とした。







「そんな。無理もありません。会うのも子供の頃以来ですからね。近い所に住んでいたわけでもなかったし」








私は父上の居城・薩摩の内城。







久保様は義弘叔父上の居城・日向真幸院の加久藤かくとう城。







会ったのも、記憶にあるかないか曖昧なほどだった。







そして確か、私の2つ下の15歳だったはず。








大人びて落ち着いていて、とてもそんなふうに見えずまじまじとその顔を見てしまう。








「…昨日といい、今日といい…忝のうございました…」








「いえ。礼を言われるようなことは何もしていません。それよりも先程は…亀寿殿をだしに使ってしまって申し訳ありません」








逆に謝られて、勢いよく首を振った。








「いえ!島津の威信のために…ありがとうございました。義久の娘として、お礼を」








そう言って頭を下げかけると、久保様と目が合う。





少し笑うのを我慢しているのが分かって、なんだか私もおかしくなってくる。







「やめましょう。終わらない気がする。せっかく久々に会ったのに」







お互いに謝り合っているから、確かにと思う。

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