第10話
謁見の間に入って、秀吉がやってくるのを待つ。
何も考えないようにして俯き、雨音を聞きながらふとまた昨日の狂い咲きの桜を思い出していた。
『明日は、お任せを』
そう言ったあの人はいったい。
豊臣の家臣の方、なのかしら。
そんなことを考えていると後ろから衣擦れの音がして、誰かが入ってきたことを知る。
ふと昨日と同じ甘い花のような香りがした気がして思わず顔を上げた。
それと同時に私の横を通り過ぎ、前に座った後ろ姿に、あ、と思う。
きっと…従兄弟の久保殿。
鮮やかな水色の直垂に、侍烏帽子をつけた正装の後ろ姿をぼんやりと見ていると秀吉が来たことを知らされた。
その人は無駄な動き一つせず頭を下げる。
ゆっくりとした足音を聞きながら、私も頭を下げた。
「…面を上げよ」
聞きたくもない声だが、従うしかないから顔を上げる。
小柄で、派手な着物を着ているこの人が。
豊臣秀吉。
「遠路はるばる…大儀である」
島津の九州統一を、阻んだその男。
九州征伐で島津の家臣の皆が苦しんだこと、そして泣いたことを私は知っている。
ばらばらと音を立てて降る雨と同時に、憎しみにも似たものが湧いてくる。
だけど…私は強く在らなければ。
そう思って意を決し、私が上辺の口上を述べようとした瞬間。
よく通る声がこの空間に響いた。
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