ベルはなに思う

山谷麻也

情報化の終着点

 ◆地雷注意

 情報化社会を生きる我々は、犯罪の地雷原を歩かされているようなものである。

 毎日、SNS(会員制交流サイト)を使った投資詐欺やロマンス詐欺の被害が報じられる。その前にあっては、オレオレ詐欺や、かつての霊感商法などは古典的な手法に思える。


 ◆詐欺今昔

 やっかいなのは、犯人の顔が見えないことである。

 私事になるが、三〇そこそこで独立開業した。当初は、事務所に出ても暇だった。

 たまに電話がかかってくると、悪名高い通信会社の営業からだった。しつこい。若い男の声だった。仏の顔も三度までだ。


「くだらないことで、電話してくるんじゃねえよ。ベルはお前たちのために電話を発明したんじゃねえ」

 突然の逆襲に遭い、青年はたじたじになった。

「それは、ベルさんに訊いてみないと分からないじゃないですか」

「何! 訊かなくったって、分かり切ったことじゃねえか」

 私は電話を切った。

 ことほどさように、まだ、詐欺グループの顔が見え、肉声が聞けた時代だった。


 ◆現代人は丸裸

 それから二〇年あまりが経過していた。

 ある高齢女性がガラケーからスマホに変更した。ショップで契約を済ませて自宅に戻り、仰天した。おびただしい数のメールが入っていたのである。

「もう、怖くなって、すぐ解約しました」

と語っていた。彼女は情報空間で丸裸にされていたのである。


 SNSに限らず、個人情報の漏洩は至るところで起きている。業界人にコンプライアンス、ひとかけらの良識もないのか、と疑いたくなる。


 ◆誤表示

 これも古い話になる。

 私のオフィスをネット上の地図に表示する、という提案があった。誰もが知る大手通信会社の関連会社だった。

 企画書を一目見て、断った。場所が違っていたのである。


 何か月かして、海外の会社の日本支社から電話があった。

「ネットで××を検索してください。そこの地図に御社の場所が出ているでしょう。わが社ではこういうサービスを提供しています」

 日本の会社のと同じものだった。出入りの業者や下請けが使いまわしをしている、としか考えられなかった。せめて、ミスを訂正しておくくらいのことができなかったのか。


 振り返れば、電話は情報化社会の幕開けを予感させるものだった。

 アレクサンダー・グラハム・ベル(Alexander Graham Bell、1847 -1922)が電話を発明してから一五〇年。今日の状況を見て、この天才科学者は何を思うだろうか。


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