第6話 髭と酒

 一夜明けた。

部屋の中は悲惨だった。三人ともあられもない姿でひっくり返っている。

 満点のサービスシーンである。


おかしい。

 これだけサービスシーンを増やしてもPVが伸びない。

やはりラッキー助平られクラスでないと駄目なのか。


 もしくは映像化が必要なのかも。

まあ、この責任は双葉にあるのは間違いない。

 

 どう間違いないのか説明してもらおうじゃないか。むにゃむにゃ。

寝ぼけながらもこの件に関しては、必ずツッコミを忘れない律儀な双葉である。

 

 夕べはたらふく食べた後、お待ちかねの宴会が始まった。

隠し蔵元の1級酒は口当たりがよく文句なく美味しいのだが、相当きつい。


 3人とも酒には目がないのだが、実は強くない。

十三などはお猪口一杯飲んだだけで、全身真っ赤に。茹蛸レベルである。


 勘三は大声で何か言っているのだが、ろれつが回らずただうるさいだけ。


 双葉はもろ肌脱いで変な踊りを踊りだす。

まださらしはほどけてないが時間の問題だろう。

ほどけても認定はされないが。


 だから誰が認定するんだにゃ、ヒック。


 宴会というよりはサバトにちかい。

このどんちゃん騒ぎは近所一帯に響き渡り、結果双葉たちはこのあたりの宿屋全てから出禁を食らったのも当然である。


 宿屋の女将からこっぴどく𠮟られた3人はすごすごと宿屋を後にした。

3人とも記憶が飛んで何も覚えていなかった。


 3人は自分は悪くないとお互いに責任を押し付けあっている様子。


 だがこんな事をしている場合じゃない。

まずは北野天満宮にお礼参り、堺の町に依頼品を届けて、報酬が入ったら約束の鉄砲を買う。

 そうそう先に馬も買わないと。


 北野天満宮に着いてお礼参りを済ませた後、いつぞやの神官に出会えた。

「いい出会いがあったようじゃな。良きかな、良きかな。」


「貴殿のおかげで同士が二人も増えました。感謝の言葉もない。」


「お礼参りをする心がけがあればこそのお導きなのじゃ。竹中殿にも会えると良いな。」


「美濃に何度も赴く用も出来ましたゆえ、必ずや会えると信じておりまする。」


「それは僥倖、精進なさるがよい。」


 深々と頭を下げ北野天満宮を後にした。


 堺の町の座に依頼の酒を届けると座の主人が

「こんなに早く届くとは思わなかったよ、大したもんだ。」


「運が良かっただけです。それと訳ありで、預り金がかなり余ったのでお返しします。」


「あんた、馬鹿正直だな。交渉とか訳ありとか、自分の才覚で浮かせた分はそれも報酬の内ってもんだよ。いいからとっておきな。」


「かたじけない。ありがたく頂戴します。」


「で、いくらぐらい余らせたのかな。」


「半分の250貫です。」


「、、、やっぱり少し返し、、、いや、見事な手腕!

またいい仕事があったらあんたに頼むよ。」


「是非に!」


 報酬を受け取り意気揚々と馬屋に向かう3人だった。


 馬屋に着くと髭ずらの親父が嬉しそうに

「おお、あんたいつもいい時に来るよな。この馬は今手に入れたところだ。見てくれよ。」


「なるほど!これは紛れもなく駿馬だ。買いたいのは山々だけど、今日は2頭買いたいし持ち合わせがたりるかな。」


「うちに買いに来たってことは、お目当ては例の栗毛だよなあ。あれは100貫、こっちが200貫、合わせて300貫はさすがに厳しいよな。

 勉強して250貫ならどうだい?」


「うーん、もう少し、、、そうだ!親父さん、その髭ずらなら絶対酒好きだよな。」


「髭と酒は関係ないと思うが、確かに酒に目がないのは確かだ。」


「ご覧くだされ。これぞ美濃の国、隠し蔵元の特級酒ですぞ。頭が高い!」


「へへー」と平伏する馬屋の主人。


「酒飲みにとってよだれもん、、、じゃなくて垂涎の的、死ぬまでに一度は飲みたい幻の酒!

 相場は100貫ゆえ酒と150貫での取引でいかが?」


「ぐぬぬ、、100貫の酒か。金玉が、、、じゃなくて、めん玉が飛び出すほど高い!

、、、けど飲みたい。

 ジュル⁉ いかーん。 よ、よだれが、、、わかったよ、交渉成立だ。」


「お互い、いい取引ができて何より。」


「お互いねえ、まあ今回だけは特別だと思ってくんな。あとあんたたちが乗ってきた馬はこっちで返しとくよ。」


「それは助かります。必ずまた来ますので、またいい馬を頼みまする。」


「おう、任せときな。飛び切りの名馬を仕入れて待ってるよ。」


 3人は深々と頭を下げ、馬屋を後にした。


 これからようやく十三との約束が果たせる。


 目指すは今浜の町にある国友村、おそらく現時点では日の本で一番の鉄砲鍛冶=国友善兵衛!


  勘三に渡した栗毛の馬を秋風、十三に渡した芦毛の駿馬を冬風と命名。

2頭とも楽々ケロについてこれるようだ。


 移動速度が底上げされた恩恵は途轍もなく大きいと双葉は思う。

大金を払ってもそれ以上の価値がある。


 堺から今浜までを風の如く駆け抜け、改めてケロたちの秀でた能力に驚く3人である。


 国友村は以前は静かな村だったが、鉄砲鍛冶が始まってからは見違えるほどに人も増え、発展した。


 鍛冶場には職人が十数名に交渉係までいる。

今や鉄砲は静かなブームと言えるだろう。

 無名の足軽が名だたる勇将すら倒せるのだから無理もない。


 交渉係が言うには、今は注文が殺到していて最低でも2か月はかかるらしい。

だからとって、このまま帰るわけにはいかぬ事情もある。


 国友善兵衛に会えないかと聞いてみたら、最近機嫌が悪くてどうだろかと。

小銭を少し包んで渡すと聞いてくるからとチョロ松兄さん。


 案内されると確かに不機嫌そうだ。

「無駄足踏ませて悪かったな。見ての通りつまらぬ注文でごった返してる。」

(つまらぬ注文! これはうまくいけば、、、)


「それがしどもが求める鉄砲は大量生産のものではありませぬ。

射撃距離、命中精度、破壊力に優れた最高の芸術品を貴殿自らに作ってもらうために参りました。」


「ほう、芸術品とな。久しぶりにやりがいのある仕事がきたな。で、誰が使うんだ?

そこのでかいあんちゃんかい?」


「拙者でござる。」十三が一歩前に出た。


「注文道理だとかなり重くなるぜ、あんたに、、」


「心配ご無用!」皆まで言わせず、十三は部屋の隅に置いてある越冬用の火鉢をひょいと片手で持ち上げた。


「こりゃあ、たまげた! よし、最高の鉄砲を作ってやるよ。

あんたのだからあんたも手伝えよ。」


「心得た!」


 出来上がるまでの10日間、十三は別行動となる。











 





 


 


 


 


 


 


 


 
























 

 



 



 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

東風吹かば @kerobotch

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る