第5話 野武士
勘三の案内で隠し蔵元に、それほど時間がかからずに着くことができた。
「爺さんはいるかい。客人を連れて来た。」
「奥で休んでるから行ってみな。」
「これ渡しておくよ。」と運んできた炭薪を傍らに置いて奥の部屋に向かった。
双葉と十三も炭薪をおろし並べて置いた。
「爺さん、生きてるかい。客人だぞ。」
「相変わらず口が悪いな、炭焼小僧。」
「今日で炭焼きは廃業じゃ。運べるだけの炭薪を持ってきたから使ってくれ。」
「そりゃ助かるが、これからどうするのじゃ?」
「この方たちと共に戦のない世をつくるのじゃ。」
「変な宗教に入ったな。哀れな奴じゃ。」
「そうじゃないが、まあいい。酒を買いに来たんだ。売ってくれるよな。」
「運がいいな、ちょうど売りに出そうと準備していたところだ。
手間が省けるってもんだが、如何ほどかってくれるのじゃ?
うちの酒は安くはないぞ。」
「特級酒を4壺、、いや、5壺と1級酒を2壺でいくらになりますか?」
「500貫と言いたいところだが、勘三の門出の祝いを兼ねて400貫に負けてやる。どうだい、買うかい?」
「有難く、買わせてもらいましょう。」
こんなに簡単に依頼が達成できるとは夢にも思わなかった。
これもまたご先祖様のご加護に違いない。
いい事ばかり続くとかえって不安になる。よからぬことが起こらねばよいが。
余計なフラグを立てる双葉であった。
「親方!てえへんだ!!」でこっぱち風に。
「何事だ?!騒々しい。」
「山賊まがいの野武士が10人ほど、酒と銭を出せと押しかけてきました。」
「それは非常にまずい!」
「それがしどもに、お任せを。」
表に出ると野武士が10人、一斉にこちらを見た。
その中の親分格が「なんだ、てめえら。やろうってのか?」
見事なまでのお決まりのセリフ。
「双葉、ここは拙者と勘三殿で。」
前に出ようとした双葉を手で制し、ゆっくりと歩き出した。
その様子に野武士たちは気おくれしたのか、後ずさる。
刀を抜こうとした野武士たちに勘三は
「抜くな!抜くと手加減できなくなるぞ。」と。
そう言われて従うようなら野武士などしない。
一斉に切りかかってきた。
勘三はひらりひらりと刃をかわし、次々に手刀を打ち込む。
一人、また一人と倒していく。
一方、十三はいつの間にか、一気に間合いを詰め親分格の前にいた。
手下どもがあっさりと倒されていき不安が高まってきた親分格。
十三が前に出ようとするより早く、、、
刀を捨てて土下座をしていた。
「参った、降参します。許してください。」
「降参などされたら、拙者の見せ場がなくなるではないか。
頭領なら少しは根性見せなよ。」
「滅相もございませぬ。手下共々心を入れ替えて堅気になりますゆえ。」
「十三殿、許してあげなされ。それがしの見るところ、根っからの悪人とは思えぬ。
なにやら事情があっての野武士のようだ。
「おっしゃる通りで。我ら10人もとは同じ村の百姓でした。村が戦に巻き込まれて、家族も皆殺されたり、攫われたり、、、戦さえなければ。戦が憎い。」
「よかろう、今からおぬしたちの住処に案内せよ。話はそこで。」
「仰せのままにします。」
蔵元の親方が近寄ってきて
「あんたたちめちゃ強いじゃないか。運び手も増えたみたいだし、お礼に酒壺を増やして渡すよ。代金も250貫でいい。」
「いいのですか?かたじけない。あまえついでに、あと若い者を一人一緒に来てもらえないか。この者たちの住処の場所を覚えてもらい、連絡が取れるようにしたいのです。」
「翔平、行ってくれるか。」
「あい、いきます。」
翔平!いい名前だ。ちみは世が世ならメジャーで、、、
閑話休題
道すがら、元親分格の権三が言うには、この辺り一体にある野武士の集団のまとめ役がいて、そのおかげというか、ここいらでは戦がめったに起きないらしい。
蜂須賀小六正勝がその人だ。
一度は会ってみたいものだな。
野武士もどきの住処はなんら普通の村と変わりがない。
小さいながらも田畑もあり、元百姓の面目躍如である。
権三の家に入るなり、カミさんらしき女性が権三に平手打ちを連発!
ビビビの嫁だ。
「あんた、わっちのいないときに隠し蔵元を襲いに行ったって?
いい加減にしないといつかひどい目に。」
「ひ、ひどい目なら、まさに今なってますけど。」
然りだ。
「女将さん、それぐらいで。気を失っては困る。」
「だれだい?あんたたち、見かけない顔だね。」
「どうやら権三さんより女将さんと話した方がよさそうだ。」
「まあわっちがこの里を仕切ってるのはた確かさ。で話って?」
「この者たち、今日限りで野武士はやめてまっとうに働くと誓ってくれた。
その上で頼みたいことがある。」
「あんた、本当かい?嬉しいじゃないの!ささ、あがってくださいな。」
打って変わって上機嫌の女将さん。
「で、頼みってなにさ。」
「この里にはまだ畑を増やす土地があるようなので、新しい野菜を二つほどつくってもらいたい。無論報酬は出しますゆえ。」
「その新しい野菜とは?」
懐から紙に包であった種を見せて
「故郷の筑前の国にいたときに、困っていた南蛮人を助けたお礼にもらったものです。
こっちはカボチャ、もう一つはニンジンといいます。まだ日の本ではほとんど作られていなくて、栄養もありとても美味しいと。」
「わっちらでもつくれるかいのう?」
「簡単にできますし、すべて教えますので安心してください。」
「悪い話じゃないし、やってもいいか。いいよね、あんた!」
「喜んで!」完全に尻に敷かれているな。
双葉は種の取り方から、育て方、売るときの注意事項までびっしりと書き込んだ手作りの冊子を渡しておいた。
近いうちに戻ると伝えて里を後にした。
双葉たちは、いったん炭焼き小屋のケロを引き取ってから、堺に依頼の酒を届けることにした。
残りの酒はここでしばらく預かってもらう。1級酒を2壺は謝礼として飲んでもいいと。
炭焼き小屋に戻ると双葉たちを見つけたケロが例によって嬉しそうにはしゃいでいる。
あれでも結構可愛げがある。
さすがにケロに3人は乗れないので井ノ口の町で馬を借りることにした。
買うなら堺の馬屋が断然いい。
確か京の座の主人が紙20箱ほしがってたな。ついでに買っていくか。
こうゆうところがなかなかにそつがない。
座で紙を仕入れて、馬屋で二人に馬を借り与えて、3人は京に向かった。
京に着くまでずっとケロが先頭を走った。
何人たりとも前には行かさぬと。 何馬か。
走りずめで借りた馬はさすがに息を切らしていたが、ケロだけは名前のごとくケロッとしていた。
座に入り紙20箱を渡すと驚いた様子。こんなに早く納品するとは思ってなかったのだろう。
仕事の報酬を少し上乗せしてくれたようだ。有難い。
そろそろ日が落ちる。
今日はここで宿をとることにしよう。
うまい酒もあるし今夜は宴会だ!
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