廃棄か殺害か

記憶

まずは結論から述べさせていただきます。記憶を無理矢理取り出すことも、廃棄なんて言葉はもってのほかです。反対です。

彼女…いや、後藤先輩が初めて作った自分の意志を持つアンドロイドなんですよ。どうしてそんなことができるんです？あなたたちだって仮死状態の人間から無理矢理血を抜き出したりしないでしょう？それと同じことです。僕はアンドロイドを引き取り引き続き研究を続けます。今回の事件について僕が協力できることは協力します。何しろ第一発見者ですからね。アンドロイドが目を覚ましたら彼女の口からきけばいいんですよ、あの日何を見たのか。それだけで済むじゃないですか。

「それが、アンドロイドを傷つけずに済む方法です。」

感情に訴えかけるように話した望月さんの意見。

「恵梨香の最後の研究に傷をつけないことが僕にとっての利益。」

「もちろんです。」

レンズ越しの望月さんの顔を見ると少し居心地が悪そうに目を伏せた。

「橘さんは、アンドロイドが二度と目を覚まさなくていいんですか…」

恐る恐る聞いてきた望月さんに言葉を詰まらせる。

「…さぁ、どうでしょう、僕は事が起きてからじゃないと自分の感情がわからない人間なので。」

言葉にすればするほど自分がいかに恵梨香に頼っていたのかが浮き彫りになる気分だ。

こんな時、恵梨香なら答えるんだろうか。