第4話 テレポート、魔晶

 ストンと足がつく。

目の前は真っ暗で何も見えない。

そしてとても狭い。

僕とアイザックさんの二人が入るだけでもキツキツだ。

そしてカビ臭く湿っぽい。

ここはどこなのだろうか。


「あぁ…、ここに着いたか…」


「ここってどこですか…」


「ああ、多分だが…」


ガチャリと扉のようなものが開いて、光が差した。

そして、するりと棒状の硬いものが背中を撫でた。


「ひゃんっ!!」


ガチャン


何かが倒れる音がした。

扉を開けた表紙に僕の背中に置いてあった箒が倒れたようだ。

どうやら僕らがテレポートしたのは掃除用具入れみたいだ。

それにしても、箒がが倒れたくらいで素っ頓狂で変な声を出してしまった。

ちょっと恥ずかしい。


「まぁ、一応俺の家だ。さっきいた場所は実験場だな。ここは多分掃除用具入れだな。埃っぽい場所に来たが…逃げれたからいいだろ。結果オーライだ。」


アイザックさんの部屋に着いたようだ。

中はなんとなく広いが家具しか必要最低限のものしか置いていない印象を受ける。


「そうですね。それにしてもなんで、ミカって子は僕たちを襲ったのですか。」


僕は気になった事を質問した。

未だ腑に落ちないことはたくさんある。

とりあえず、この世界では魔法が存在して僕はその中の一つ回復の魔法が使えることがわかった。

でもそれ以外のこと、僕がどうしてこの姿でここにいるのかとか、どうして作られたのかとか。

まだよくわかっていない事はたくさんある。


「ああ、それはだな。お前が価値があって珍しいから…かな。」


「え…?価値…?ぼくにですか?」


「ああ、そうだな。誘拐して売り捌けば一生分遊べるだけの金が手に入る。」


「そんなに!」


思わず、叫んでしまった。

こんな僕にそんな価値があるのか?

本当に?


「まぁ、どうしてかってのを簡単に説明すると、この世界には魔法がある。そしてその魔法は生まれた頃から使える種類が決まっている。その中でも珍しいのが回復系の魔法だ。使えるの100人に一人くらいだな。」


「へぇ…」


アイザックさんは壺を回しながら説明を続ける。

少し楽しそうだ。

目が輝いている。

こうゆう知識を誰かに教えるのが好きなのかもしれない。


「そして、その回復魔法を使えるの九割以上が女性なんだ。つまり、男で回復魔法が使えるのは本当に珍しいんだ。世界的に見てここ100年あたり回復魔法が使える男児が生まれたのはだったの16例。この数字を見れば自分の珍しさがわかるだろう。」


「確かに、そんなに数が少ないなら僕に価値があっても、おかしくないのかも。」


なんだか実感が湧かない。

とても珍しい人間になったことはわかったが、それが僕と言うのはなんだかむず痒い感じがする。


「じゃあ、アイザックさんはめずらしいから、僕をここに呼んだというか作ったってことですか?」


「いや、それだけじゃないな。ある物の開発のためにお前を作ったてのが正しい。」


「なんです?それ?」


「回復魔晶って奴だな。それがあれば、どこでも怪我を治療できるようになる。」


アイザックさんはローブの中から、手帳を取り出した。

ずいぶん膨らんだ手帳だ。

ぱんぱんに膨らんで丸まっているようだ。


「ああ、ここの紙だな。」


紙を一枚手渡された。


『魔晶の作り方

《材料:魔導石(魔力を伝導する石)、特定の魔法が使える生物の血液》

手順1:まずは、魔導石を細かくすりつぶして粉にする。

手順2:次にそれを特定の人間の血と混ぜ合わせる。

手順3:混ぜ合わせた物を2000℃に温めた溶解炉に入れ加熱し溶かす。

手順4:溶解した状態のまま型にいれ冷やし固める。

注意点:魔導石と血液の相性によっては効果の出にくい物がある。特に回復魔法は魔導石に混ざりずらい』


理科の実験書や料理の手引きのように魔晶の作り方が事細かに書いてあった。

回復魔法の血が混ざりづらいという事は、回復魔晶は作りづらいということだろうか。


「ああ、理解できたか?まぁ、つまり回復魔晶ってのは作りづらくてな。どうも魔導石との相性が悪い。俺はその原因が、今まで使ってたのが雌の血液だからだと思って試しに、お前を作ったんだよな。」


随分サラッと言ってるけど、結構すごい事をしている。


「僕ってつまり、実験体ってことですか?」


「まあそうなるな…。つまりお前は俺のモルモットだ…。」


「ひぃっ…」


「まぁ、怖がるなよ。取って食って舐め回すわけじゃないから。一応血を取って魔晶を作ることが目的だな。」


「その…、怖いことされません?」


「シナイシナイ…」


とっても胡散臭い。

せめて採血以上に痛いことがされませんように。


「因みに、結果は上手くいかなかったけどな。」


「へっ?」


「やっぱ、魔導石との相性がよくないな…。」


アイザックさんは手帳をぱんと閉じながら舌を出した。

どうやら、もう実験は済んでいたようだ。


「えっと、これから…アイザックさんは…どうするんですか?」


「ああ、そうだな。これから、他の素材を探したり、他の回復に効果がある素材を探したり、そんな感じだな。」


「えっと、僕は…」


「ああ、そうだ。お前は俺の実験のために、回復魔晶を作るために必要だ。だから俺と一緒に付いてきて欲しい。」


正直怖いけど、僕を必要としてくれているのか……。

なら行くしかないよな? というかどこに行けばいいんだろう?


「あと、説明し忘れてたな。この世界じゃお前みたいな珍しい人間は貴族や王族、魔王に高値で売れる。だから、気をつけろよ。」


「え…、?じゃ、じゃあ、やばいじゃないですか。ミカさんみたいに僕を狙う奴がたくさんいるってことですか。


「そうだな。うん…なら、変装しかないな…。それがいい。よし、サツキこれから街に行こう。そして素材集めに必要な道具とお前の変装用の服を買おう。こんな状態じゃ困るだろう。」


そういえば、僕の着ていたネグリジェはところどころ破けて、ひどい状態になっている。

こんな状態じゃどこにも行けない。


「よし、じゃあ、とりあえずこれ着てろ。」


手渡されたのは藍色のローブだ。

着てみると少しブカブカだ。

でも、ギリギリ問題ない具合だろう。

薬品の匂いとアイザックさんの匂いがする。


「あの、これって…」


「俺のお古だな。お前、ちっさいなぁ。」


「あなたがそう作ったんですよ……。」


アイザックは僕の体をじっくり観察しながら言う。

なんだか恥ずかしいからやめて欲しい。


「よし、じゃあ行くか。」


「あ…待ってください。」


そう言ってアイザックさんは扉を開き、街に向かうのであった。

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女の子しか回復魔法が使えない世界じゃ、サツキくんは男の娘になるしかない。 傘仔 @Tatsumi10

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