第16話 暴政
結局流されるままに交渉の矢面に立つことになってしまった。俺の雷名は世間じゃ勇者の肩書よりも恐れられているらしい。実際にペラギアとエルフの戦士数名を連れてフェルカイク家にあいさつに来たときには当主のジェームズは顔を真っ青にしていた。
「つまり鉱毒がエルフたちの生活を脅かしているからなんとかしろと」
「ええ。こちらの要求は鉱毒の制御と被害者への補償。開発に関しては止めろとまでは言わない。その代わりにエルフたちにも樹海の使用料を払ってもらいたい」
「な、なるほど…わかりました…」
ジェームズは渋い顔をしていた。この世界基準じゃ普通にやっていたつもりの鉱山開発に茶々入れられてるんだからおれなんかヤクザみたいに見えて仕方ないだろう。
「了解しました。被害者への補償と今後は環境への配慮を行った開発を行い、樹海の使用料をエルフの皆様にお支払いいたします。それでよろしいでしょうか?」
あっさりと決まった。ジェームズは書記官を読んできてそれらを文書化する。ジェームズ・フェルカイクとペラギア・ヴァレンテのサインが成されて条約は正式に調印された。俺はふうと息を吐く。何事もなく終った。俺という威圧だけでエルフは今後の生活の安定を手にした。これで良かったのだろう。俺はそう思った。
フェルカイク家は俺の素行を知って恐れているのだろう。機嫌を損ねたら殺されると知っている。別にシリアルキラーではないのでそうやって恐れられるのは遺憾としか言えない。
「ではすぐに鉱山に案内して欲しい。樹海の使用料は算出するガス量から算出する決まりです。わたくし個人としては森を汚すものであり気に入りませんが、ヒューマンと共存するのであればそれは必要経費です」
ペラギアは政治家としての顔をしている。同時に早く決めてしまいたいのだろう。エルフたちは平穏を好む。彼らは一刻も早く帰りたいのだろう。そしてやってきたのは樹海の片隅に建てられたガス田。
「ガスは特定の地層に含まれています。そこへパイプを通してガスを抜きます。それらを分留してより純度の高い魔素ガスを手にするわけです」
ジェームズが俺の方をちらちら見ながら説明している。
「今回鉱毒となってしまったのは加工工場からの廃棄物でした。処理が甘かったことをここに改めてお詫びします」
なんか逆に可哀そうに見えてきた。だけどなんでこんなにも丁寧な対応なんだ?貴族はおれへ敬意を払ってもあくまでも対等な雰囲気を崩しては来ないものなのだが。
「なるほど。納得いきました。今後はそれらが漏れないようにお願いいたします」
ペラギアはジェームズの説明に納得しているようだった。だけど俺には何か引っかかるものを感じていた。
「侯爵さま。ここの労働者はどうやって集めてきた?」
「日当を提示して公国から集めております。きちんと賃金は支払っておりますし、労働時間等も問題ありません!公国政府もここの労働環境を褒めているほどです!」
ますます解せない。ちゃんとした労働環境を用意している。なのに自信がなさそうなのはなんでだ?そんなときだ。俺のそでをラエティティアが引っ張った。
「あのね。なんか変なにおいがするよ。あの建物の方から」
「変なにおい?」
「説明は上手くできないけど、これは関わっちゃいけない匂いな気がするの」
ラエティティアの顔は真っ青で気持ち悪そうだ。彼女は俺によって超強化されている。その五感が捉えたのだからきっと何かあるのだろう。
「ちょっとあそこの建物をみせてもらえるかな?」
「あ、いえ!?あそこは廃棄物の置き場です!まだ汚染度が高いので止しておいた方がいいですよ」
侯爵は必死に止めてくる。俺はラエティティアに命じる。
「ラエティティア。侯爵を抑えていろ」
「Yes.your majesty」
ラエティティアはコスチュームチェンジして侯爵の首筋にソードブレイカーを添える。それで侯爵は身動きが取れなくなった。そして俺はその建物のドアを開ける。そして中で見たものは。
「あ…。嘘…だろ…っ…」
そこにいたのはフラフラとした大人たち、種族や男女関係なくぼぉーっとして身体を横たえている。そして足元に散らばるのは注射器だった。間違いないジャンキーの群れだ。俺はすぐにその建物から出る。
「あれは一体なんだ!?」
俺は侯爵の首根っこを掴んで睨みつける。
「な、なにって。鉱山労働者たちです。よくあるんです。彼らは薬にすぐに手を出すんです。見栄えが良くないのであの建物に隠しておきました。すみません」
「うそだ!お前は嘘をついているな!薬の出所はどこだ!こんな辺鄙な場所に売りに来る売人などいない!誰が売ったんだ!」
怯えたような目でジェームズが俺を見ていた。それで確信した。こいつが労働者たちに薬を投与した。地球でも昔は、いいや、今でもそうだが過酷な労働環境に曝される労働者に覚せい剤を配って働かせるということはよくあることなのだ。まさかこのファンタジー世界でそれにお目にかかろうとは思わなかったが。
ココハアクトクノイズミ。トミハアクトクヨリアキイデル。
「し、しかたないだろう!あいつらはせっかく日当を出してもすぐに働かなくなる!文句ばかり言う!だから薬をくれてやったんだ!そうしたらちゃんと働くようになったんだ!」
「それで何人の人間が壊れると思ってるんだ!」
「このガス田が生み出す富は莫大だ!なに!労働者がいくら死のうが、その家族に補償さえしてやれば何の問題にもならない!薬だって合法の品だ!公国軍の竜騎兵だって夜間哨戒で使っている除倦覺醒劑だ!私は間違ったことはなにもしていない!」
アアケイモウガヒツヨウダ。
「ラエティティア、カラス。ジェームズ・フェルカイクの両腕を抑えつけろ」
「「Yes.your majesty!!」」
「お、おい!なんだ!なんだこれは!」
そして俺は斧を召喚する。もっとも源流の王権の証。人民の蒙を啓く刃。蒙を啓くには生贄が必要だ。処刑せよ大罪人を。見せつけよ罪の末路を人民に!
「朕は汝に罰を下さん!朕より死を賜ることを誇りに思え!」
そして俺は斧を振りかぶり、侯爵の首に振り下ろした。
誰かの叫び声が聞こえた。
誰かの喝さいも聞こえた。
みんなが僕を畏れの目で見ている。
俺は侯爵の首を掴み天高くかざす。
「この地の悪徳はこれにて滅んだ!ひれ伏せ人民!汝らが王は朕である!」
俺の叫びと共にエルフたち、侯爵のお付きたち、労働者たちが一斉に膝をついて頭を下げた。王はここにいる。そしてそれは俺のことだった。
---作者のひとり言---
またやらかしたよ(;´Д`)
稀人の暴君~居場所を奪われた俺はチートスキル『斧』で嫌なやつみんな処刑するよ!~ 園業公起 @muteki_succubus
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