2.チュートリアル
一瞬の浮遊感の後、地面に降り立つ感覚が足に伝わる。ゆっくりと目を開けると、いかにも中世ファンタジーな石造りの街並みが見えた。周りを見渡すと、どうやら今俺は広場のような場所に立っているようだ。
息を吸って、吐いて。ぐっと伸びをする。
空気が肺を満たす感覚が、体の筋肉が伸びる感覚が、太陽が肌を照らす感覚が。その他の生きてるって感覚が全部、余すことなく感じられる。
現実よりも幾分か涼しめの風が穏やかに吹き抜けて、俺の背後に生えている、おそらく広場のシンボル的な存在であろう大木の、青々とした葉っぱを揺らす。
風の感触、葉擦れの音、そのすべてが現実と同等の情報量を持っている。
また、地面の方に視線を向けると、石畳が広場に敷き詰められてい居る。地面に立っていると全体が見えないが、どうやら何かしらの模様が描かれいるようだ。
俺はおもむろにしゃがんでその表面をなでた。
「当然、表面の
歩きやすくするための工夫であろう、ざらざらとした引っ掛かりのある石の感覚が指先に感じられる。
事前の評判に偽りなしというか、想像以上というか。
そうやって五感から感じられる情報量に感動していると、ふと視線?のようなものを感じて周りを見る。
周囲にはおそらく俺と同じように、まさに始めたてって様子のプレイヤーたちがいる。
「ていうかめちゃくちゃいるな」
誰に見られているのかと思ったが、なるほど、こんな衆人環境下で地面を這いながら、独り言をぶつぶつ言っている奴がいるらしい。つまり俺だが。
完全に不審者だな。
といってもテンションが上がって様子がおかしいやつは俺以外にもいて、そいつらとまとめて生暖かい視線が向けられているようだった。
それでもめちゃくちゃ恥ずかしい。完全にお
いたたまれなくなった俺は、そそくさとその場から逃げ出したのだった。
―――
「さて、これからどうしたもんか」
俺は最初の広場から続いている道を歩きながら、次の行動を思案する。今は広場からなんとなく人の少ないほうへと動いているが、それでも結構なプレイヤーが周りにいる。
さすがに広場から出てからは特に目立ったりはしていない、と思う。多分。......悪目立ちした後って何やっても誰かに見られてる気がしちゃうよね。早く忘れよ。
で次にやることだが。実はずっと無視していたが、
ゲームを最初にプレイするときって、こういうあからさまに「ここからチュートリアルです」みたいな誘導を見ると、つい無視したくなっちゃうんだよね。たまにゲーム側がそういうプレイヤー向けに隠し要素を入れてたりもするしね。
まぁ今回はそういう要素もなさそうだし、そのアイコンに
『ようこそALTerraの世界へ』
目の前に半透明の四角いウィンドウが表示される。開かれたウィンドウを確認すると、ステータス、
「こっからチュートリアルを受けれる感じね」
クエストの指示に従うタイプのチュートリアルか。良かった、 勢いでさっきの広場から出たけど、もしかしたら戻る必要があるかもとも思ってたんだよね。さすがにさっきの今で戻るのは、ちょっと気乗りしない。
「まずは『インベントリを開け』と」
またさっきの恥ずかしさが戻ってきそうなのを抑えて、チュートリアルを進めていく。最初の方に並んでるのは、さっき開かれたウィンドウにある項目の説明だ。
インベントリ、ステータス、スキルといった項目を順に開いていく。
持ち物は当然何もない。せっかくなので、なにか入れられるものがないかと周囲を見渡す。道の端に生えている雑草と転がってたから無意識に蹴っていた小石が目に入ったので、試しに拾って入れてみたら普通に入った。
「どっちも素材アイテムってなってる。石はわかるとして、雑草は何だ?アイテム名も雑草だけど……」
雑草としての使い道があるのか、何らかの方法で鑑定をすると使えるのか。まぁ今考えてもしょうがないか。
次にステータス。
「レベルは1。HPとMPが100で他は全部10か、どんくらいの強さなのかわからんな」
項目はHP、MP、STR、INT、VIT、AGL、DEXの7つ。一応ほかにも種族とかジョブとかの項目も表示されているけど、とくに説明が表示されない。多分、今は関係ない感じだろう。
それぞれの項目のざっくりとした説明を読んでいく。
HP、MPは体力と魔力。体力が尽きれば死んで、魔力はスキルを発動するのに使ったりする。特に変わったことは書いてない。
STRはストレングス、つまり力の強さ、物理攻撃力を示す。INTはインテリジェンス。賢さ、ゲーム的には魔法攻撃力のことだ。この2つも特に変わったところはない。
VITはバイタリティ。言葉としては生命力みたいな意味だ。ゲームによって何を示しているのか微妙に異なるが、説明には「打たれ強さ」とある。防御力的なステータスっぽいかな。攻撃と違って物理と魔法で別れてない感じか。どういう計算式になってるか気になるところ。
AGLはアジリティでそのまま素早さ。これもフルダイブVRだと微妙にどういう意味になるかってゲームごとに違うんだよなぁ。足が速いのか
最後のDEXは器用さで、一般的には武器を使う条件になったり、スキルの習得条件になったりする。ゲーム内の説明はシンプルに「器用さ、技能の高さ」としか枯れてないので、何を示すのか完全には読み取り切れない。
「うーん、さすがにステータスの意味ぐらいは調べたほうがいいかなぁ」
俺は基本、ゲームをプレイするにあたって、事前情報とかはできるだけ見ないようにしてる。その方が新鮮に楽しめると思ってるからだ。
ただ、さすがにこのレベルで基礎的な部分となるとさすがに調べたほうがいい気もしてくる。
まぁでも、これを調べるためだけにログアウトするのは面倒だし、今はいいや。最悪、プレイしているうちに分かるだろ。
「で、最後はスキル」
これが一番気になる。
実は、さっき事前情報は好きじゃないとか言ったが、残念ながら回避しきれずに知ってしまったことがある。それはステータスの伸び方がスキルによって決まるらしい、ということだ。
自力でステータスの数値を割り振る形じゃなくて、スキルの習得条件や使用頻度などによって、レベルアップの時のステータスの伸び方が自動的に決まるんだそうだ。基本的にスキルが要求するステータスが伸びる。ということは、つまりプレイヤーの個性はスキルによって決まるってことだ。
「とはいえ、今は何も……なんかあるな。”言語理解”?」
なんだこれ、最初からもってるスキルか?でもわざわざ言葉が分かるなんてスキルいるか…?
あ!そういえば、運営が最終的に世界中のプレイヤーが一つのサーバーで遊べる的なこと言ってたし、翻訳システムがありますよってことか?スキルの説明にも「言葉がわかる」しか書いてない。
まぁ最初からみんな持ってるやつだろうし、気にしなくてもいいか。
「それでスキルを習得するにはSPなるものが必要で、今は0。レベルアップや一部クエストの報酬なんかでもらえると」
あ、チュートリアルクエストの報酬にSPがある。これで最初のスキルをとれってことか。
それからさらに、設定やらゲーム内掲示板やらを指示に従って確認していき、表示されている最後のチュートリアルを完了し、報酬を受け取る。
「ってまだ追加されるのか」
空になったはずのクエスト一覧に新たなクエストが表示される。
マップを開けだとかアイテムを購入しろだとか、追加のチュートリアルのようだ。
かなり丁寧にチュートリアルで説明してくれるな。
「VRゲーム新規も増えるしこんなもんなのか……?」
ALTerraの注目度を考えると、これを機にVRゲームを初めて触るって人も結構な数いるのだろうし、これぐらい丁寧な方がいいのかもなぁ。
しょうがない。俺も初心者になったつもりでやっていくか。
―――
「うっま。といか味の再現度、高すぎ」
チュートリアルの途中で購入したリンゴをかじりながら、その情報量の多さにもう何度目かもわからない驚きを覚える。
ここまでクエストの指示に従って、マップを埋めたり、リンゴを買ったり、商品を落としてしまった
まぁいいや。それでその過程で分かったことを軽くまとめる。
まずはお金。通貨はアルゲンで単位は
あと、さっき助けた商人のクエストで500Arもらってる。金銭感覚はそんな感じだ。どうせこういうゲームは、序盤のうちはすぐインフレするから参考程度にしておこう。
あともう一つ。レベルが上がった。
戦闘なんてしてないし、なんならまだ街から出てない。なんというかすごい唐突なタイミングでレベルアップした。一応クエストを達成したときに経験値が入ってきていることはステータスを見て確認していたので、そのうち上がりそうではあったのだが、レベルアップのタイミングは本当に歩てるだけの時だった。
まぁ原因はある程度予想がついていて、多分だけどただ歩いてても経験値が入ってくるということだと思う。
ALTerraは非戦闘系のコンテンツも充実してるらしいし、そういうタイプのゲームでは戦闘以外の行動で経験値が入ってくること自体は珍しくない。ただ歩くだけで、ってのは珍しい気もするが。
しかし、ステータスの上昇のタイミングがレベルアップ時であること、その方向性がスキルによって決まるらしいってことを考えると、”スキルをとらず街でふらふらしている”というのは実はあまりよくない気がしてきた。
「そろそろ街の外に出るかぁ」
次の更新予定
毎週 日曜日 00:00 予定は変更される可能性があります
ALTerra やそや はち @midou_kuro
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