綺麗な盗犯

@huhho

掃除屋泥棒

「なんて今日はいい日なの!まさか本当に来るなんて!!」


広く豪華な屋敷の小さな部屋で、まるで絵画の様に綺麗な彼女はそう叫びながら歓喜する、そんなご機嫌少女の目線の先では一人の不機嫌な男が苦痛な顔を浮かべながらそこに立っていた。


「––は?」


彼は泥棒であった‥


「一体どんな風に−私の家からお金を盗むんですか?その背中の大きなバックで?それとも金庫ごと?もしかして、土地の権利者とか?!」


まるで宝物を見つけた様な目でこちらを見てくる少女を眺め、男はひどく頭を打ちつけたかの様な目眩に襲われる

それも当然、男は今まで人に見つかったことはなく、盗みに失敗したことももちろんなかった。そうなってくると、どんなことでもある程度プライドと言うのも生まれてくるのだが、それも今日ここまでの様で、たった1人の少女によっていとも容易く壊されてしまったのだ。

−もちろん準備を怠ったわけでもない、警備の少ない日を選んでいるし、警備が多くたってバレない様な経路を探し出したはずだ。

しかし、現実は非常にも目の前には1人の小さい少女がいる。

男は大きなため息を吐きながら部屋の壁にもたれかかり、少女に聞く


「それで?嬢ちゃんは俺を捕まえにでもきたのか?」

「馬鹿ねぇ、そんなわけないじゃない」


ならばなんだと言うんだ?男は困惑し顔に張り付いた濃いシワを一層深くする

そんな男に少女は顔を突き出しこういった。


「そんな険しい顔をしないでよ–

「まて、お前なんて言った?し、師匠って言ったのか?」

「いいえ違うわ、正しくはお師匠様よ!」

「お師匠さま!!私を弟子にしてください」


一見すると、小さい少女が男に対し元気な声で師匠呼びをする可愛らしい光景なのだろうが。彼は泥棒だ、そこにはロマンティックの欠片もなく、なんなら犯罪臭まで漂っている。


「あ––…嬢ちゃん、俺が誰だかわかってるか?」

少女は首がはち切れんばかりに首を縦に振る

「もちろんよ!最近噂になってる義賊様でしょ?!」

「–ちがう、俺は金持ちの家から金品を奪う悪い泥棒だ。」

これは本当である

彼は確かに貴族からしか金品を盗んでいないが、それは決して善意などではなく実入が良いからである、ましてや市民にお金を配りながら走っているわけでもなく義賊と言える要素はどこにもないのだ。


「そう?、たしかに貴方は市民から見ればただの盗人よ-でも私にとっては素晴らしい義賊様なのよ?」

心を見透かしたかの様に少女は喋り出す


「私のおうちはね–ものすごく悪いことをしてお金を手に入れてるの、それこそ此処にある金品が全て血に塗れた醜い様に見えてしまうくらいには」

そう言って彼女はその深く暗くなった目で部屋にある金品を見渡しながら言う


「でも、貴方が盗んでくれればそれは単なる盗品。血に塗れていた事実は塗り替えられる」

「つまりあなたはこの血に塗れた金品を盗品というに変えてくれる義賊様であり、この汚れた世界の掃除屋なのよ!!」

「私はそんなあなたの弟子になりにきたの!

そうすればこの穢らわしい物も綺麗な状態に変えれるもの。」

「こんなに素晴らしいこと、他にないじゃない?」

男が言葉を挟まめる余裕もないほどの速さで興奮しながら少女はその小さな口を動かす。

男は考える、もしこれで彼女を弟子にしてしまえばその後の少女の生活は一転し辛いものになるだろう–しかし、この少女を置いていけばそれもまた辛いものがあるだろう。


盗人は暫く黙り込んだ後、喋り出した

「もし俺が、お前を弟子にしないと言ったら?」

「そしたら、私はあなたを捕まえます。」


それならもう盗人に残される選択肢は一つしかない。

動きを止めていた盗人は侵入口へと戻ろうと背中を向ける。

そんな盗人の背中に少女は叫ぶ

「私を弟子に取らないつもりですか?!」


男はため息をつきながら、窓に足をかけた状態でピタッと止まり弟子に向かって喋り出す

「今日はダメだ、今の大声で周りにばれたかもしれない上に、時間がかかりすぎだ盗むんだったら次の新月だな。ほら、来ないのか?」


少女はまるで時が止まったかの様に止まり、暫くした後

「はいっ、師匠!!」

と言う言葉と小さな弟子は師匠の背中を追いかけ窓へと走り出す。


そんな彼らは今日もどこかで掃除をしているのだろう

















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