波濤 7
どこか近くで音がした。
そう認識した時、俺の両目は暗い天井を見つめていた。
何故か自分は仰向けで、その所為で物音と一緒に聞こえてきた地響きも全身で感じられた。重たい物音はこの屋敷そのものが動いているんじゃないかと錯覚しそうになる。その地響きがどこから来ているのか確かめようと、仰向けのまま頭を動かした時、
「……相澤さん」
声がした方へ顔を向けると、廊下に葵さんが立っていた。作り物のような端整な顔に、はっきりとした悲しみを浮かべている。何かあったんだろうか……。
「葵さんでしたね、どうかしましたか……?」
「相澤さん……また、真実を知ることになるんですね」
「はぁ……真実ですか?」
何を言っているのかわからず、俺は起き上がる。いや、それ以前に自分が廊下で仰向けになっていた理由もわからない。
「ああ、そうだ! 急いでここから逃げろというのは……どういう意味ですか?」
「そうですよね……あなたも今や囚われた姿無き役者の一人。今度こそ結末が変わるかもと思って……抗いましたが……結局は……」
葵さんは俯いた。今にも泣き崩れてしまいそうに見え、俺は彼女にそっと近付いた。すると、彼女は黙ったままとある場所を指差した。その指先を辿り、指し示された場所へ目をやると――廊下に相澤猛が倒れていた。
「えっ……?」
動かない俺の胸からは夥しい量の血が溢れ、側には佳奈ちゃんもいる。彼女はうずくまり震えていて、聞こえて来るのは耳障りな狂笑――。
これは変だ。佳奈ちゃんは山の中にいるはずで見つけてもいない――その時、ズウゥゥン、という轟音が頭の中で響くと同時に強烈な頭痛が突き刺さり、屈み込んでしまった。
「相澤さん、思い出して。ここへ来て……あなたがどうなったのか……」
佳奈ちゃんを追って飛び出した駐在所――彷徨った機巧山の中――屋敷を見つけ、捜索を諦めた――屋敷の中に佳奈ちゃんはいた――狂った女の執拗な追撃で俺は撃たれた――自分と入れ替わる人はいない――元に戻る狭間で永遠に同じ役を繰り返す――。
「ああ……そう、か……」
そっと自分の胸に触れる。そこに弾痕は無い。それは……自分が既に死んでいるからだ。
「あの時と同じ舞台が繰り広げられています……どうか、彼らを助ける為に……」
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