最終章 機巧のエレジィ

第拾肆幕 遺愛

「やぁ、よくここまで来れたね……お嬢さんたち」

 重たいドアを開けると同時に、厳格な声が響いた。その声の主を捜す必要なんてなくて、私は即座にリュシテン・螢を思い浮かべた。

 ドアの先に広がっていたのは、コンクリート剥き出しの壁に囲まれた三十畳近い空間だ。その空間を照らすのはあちこちに聳える灯台が掲げる奇妙な石だ。穏やかな乳白色を発しているおかげか、コンクリートの壁でも室内に冷たさを感じさせない。

「どうした、入って来なさい。私は君たちに襲いかかるようなことはしないよ」

 部屋の中心で車椅子に堂々と鎮座する螢さんの言う通り襲いかかって来るようには見えないけど、軽々と入ることは出来ない。だけど、その警戒はすぐに瓦解した。何故なら、

「桜、瑠偉、二人とも普通に入って大丈夫だ。当主様の言うことは本当だからな」

「えっ――」

 私たちは顔を見合わした。

「よくここまで来たな。さすが……俺が見出した機巧人形たちだ」

 螢さんの横へ姿を見せたのは京堂明夫さんだ。まるで最初から螢さんの付き人だったみたいな自然さで隣に立った。だけど、私たちが驚いたのはそれだけじゃない。

 驚いた理由のもう一つは、広大な空間の至る所に置かれたものの所為だ。手術台のようなベッド、気味の悪い液体が満たされた水槽と成人男性が入っても余るほど大きい試験管たちが並ぶ壁、白い机の上には医療器具が散乱し、棚や床には人形の躰が放置されている。

「この部屋が何かわかるか? 桜、お前が考えているような腑分け場でないのは確かだ」

「ここが何の部屋か……それはこれを見ればわかるでしょう」

 螢さんは座ったまま動かず、彼から見て部屋の右手に顔を動かした。その先には天井から床まで伸ばされた白いカーテンがあり、京堂さんは何も言わずにそれを動かし――。

「ひっ……!」

 瑠偉が即座に悲鳴をあげた。彼女があげた悲鳴の先には、紺碧で満たされた巨大な試験管の中に作りかけの球体関節人形が五体も浮かんでいる。どれも中途半端で眼球や下半身、四肢が付けられていないものや腕や躰にワイヤーが巻き付けられているものまであって、私は思わず見世物小屋に近付いた。それは峠に散らばる人形や屋敷に飾られて動き回っている人形たちがおもちゃのようにすら見えるほどの技巧――人間そのものを作るとまで言わしめた桐生楓が作った人形すらも凌駕している。

「どうだい? 私のご先祖様は凄いだろう? さぁ、こっちに来なさい」

 そう言った螢さんの表情は厳格のままだけど、初対面の時よりもずっと優しくなった感じで私と瑠偉を手招きした。

 螢さんと京堂さんの手前には黒く大きな棺桶が置かれていて、その中には敷き詰められた深紅の布を背中にしたまま眠っている女性型の球体関節人形がいる。その人形には何故か目が無くて、胸の前でバラの花束を抱いている。

「螢さん……この人形は……? それに……ここは一体……」

「これは作りかけのまま放置されている哀れな人形さ。そしてここは……初代当主の人形製作部屋だ。正確には私の四代前のね」

「あなたは四代目なんですか……?」

「そうだよ。この狭間にあるリュシテン邸も私が建てたわけじゃなく、初代当主として君臨していた〝ソーマ・リュシテン〟という人物が建てたんだよ。君たちが撥ねた人形は……おそらく、そのソーマが作り上げた人形だったんだろう」

「ソーマ・リュシテン……その人が泉屋人兵衛の師匠……?」

「君らも……色々と知りたいことがあるだろう? 少しお話しようじゃないか、うん?」

「二人とも知るべきだ。この素晴らしい世界のことを」

 そう言ってのけた京堂さんの笑みが気持ち悪くて、私は静かに一歩下がった。

「真実が……わかるんですか?」

「全てを知りましょうか。機巧山と、この屋敷と住人たち、我々の創造主のことを……」

 そこまで言った螢さんは咳払いし、車椅子に背中を預けた。

「この屋敷は現世でも黄泉でもない……時間すらも存在しない永遠に閉じた空間に存在しています。現世にこの屋敷は存在しておらず、おそらく認知も出来ないでしょう。ただ……葵という役者が唄う声を聞いた者だけが、この狭間の屋敷を認知することが出来る」

 遭難した時のことを思い出す。白い霧と雪に囲まれて事故現場に戻されてしまった。

「この空間で……ソーマは私たち人形を創造していました」

「ソーマ……その人は今何処に?」

「さぁ? どこへ行ったのか見当もつきません。とにかく、ソーマはオリジナルを創造し、この屋敷で芝居を演じさせていたのです。我々はそれぞれの役割――ソーマの次の当主、双子の娘、執事、使用人、主治医となって永遠に芝居を演じ続けた。だが……ソーマはいつの間にか屋敷から姿を消してしまった。その後は自由になるための手段を考え出す役者が出てきた。その思考自体がシナリオ通りなのかもしれないが……迷い込んだ人間を殺せば芝居から解放されることに気付き……自由を求めて芝居を続けている、というわけです」

 螢さんはそこまで言って、車椅子に背中を預けたまま暗い天を仰いだ。

「ソーマさんはどうして人形――いえ、どうしてあなたたちを人形にして芝居を……」

「だから私は京堂さんに言ったんですよ……生んだ親の心さえもわからないと」

「あなたは四代目だと言っていましたが……どこでシナリオを知るんですか?」

「記憶を受け継ぐんですよ。入れ替わった者は記憶もシナリオも。先代がどこから来て、どう抗って入れ替わったのかも知っています。自分がどんな結末を迎えるのかも全てを」

「それじゃあ……その外見は?」

「この外見も先代から受け継ぎますが……時々いますよ。顔立ちがオリジナルではなく受け継いだ人の外見になる時がある。まったくない時もあれば、今回のように顔立ちが変わる時もある。そう言う私の顔はオリジナルのものだ。本当はもっと嗄れた爺だよ。ああ、それと、峠の人形はほとんどが泉屋人兵衛の作品だけど、撥ねたあの人形はソーマの初期作品だろう。どうやってここから逃げ出したのかはわからないが……彼らは峠で永遠に横たわる罰を与えられる。この屋敷から出てしまえば……満足に動けないのに……」

 目を細めた螢さんは、人形である自分の掌を見つめている。

「ソーマの目的……わからないだろう? ただ……オリジナルの記憶に残っているのは、彼からの……寵愛かな」

「寵愛……?」

「ええ、特に葵さんは可愛がられていた気がしますよ。精神的にも……肉体的にもね。さて、まとめるとこうだ。

 一九一五年、欧州人を装って人形峠に住み着いたソーマは、弟子にした泉屋人兵衛を指導しつつこの狭間に屋敷を作り、我々のオリジナル人形を作り上げた。オリジナルの葵さんを見ればわかるように、人間と同等か、或は遥かに凌駕する美しさを持ち、心まで持っている球体関節人形だ。

 ソーマは我々の芝居を眺めていたが、いつの間にかいなくなってしまった。それを受けて一九四0年に泉屋人兵衛も峠を棄てた。それでも我々は芝居を続け、葵さんの唄声に導かれた客を襲ってそれぞれが入れ替わり続けた。

 この芝居はやがて終幕を迎え、また一から始まるが……客が起こした行動は芝居にも影響を与える。今、この時間は全てがアドリブだ」

「あの……動き回っている人形たちは何なんですか……?」

「あれらは……お遊びで作り上げた人形たちだ。心はあっても……入れ替わることは出来ないし、元人間というわけでもないから倫理も道徳もない、ただ芝居に従う殺人人形だ」

「でも……ここへ来れたのはその人形が導いてくれたんです……一体だけですけど」

「ほぅ? それはまた……何か気に入られるようなことを?」

「そうかもしれません。螢さん……ソーマという人はどうしてこんなことを――」

「桜、俺はソーマという男がこの屋敷と人形たちを創造した理由がわかる気がするよ」

 私の声を遮って、京堂さんは言った。

「素晴らしい屋敷と人形たち、この部屋を見てわかった気がするんだ」

 その豪語に対し、私はタロットカードを思い出した。誘惑や裏切りを示す悪魔――。

「瑠偉、お前もわかるんじゃないか? ソーマの気持ちが」

「えっ……? いや、アタシは……」

「わからないか? 峠に散らばる人形も、この屋敷にいる人形も共通点がある。それは……全員が美しい躰をしているということだ」

 それは当然じゃないですか、と私は瑠偉を背中に隠す。

「瑠偉、お前は綺麗だよ。それは間違いない。だが……その美しさが永遠に続くなんて夢物語を信じているわけじゃないだろう? うん?」

「……アタシは人間ですから」

「そうだ、そうなんだよ……! 俺もお前たちも……立派な人間なんだよ」

 京堂さんは壊れたおもちゃみたいな歪さで両腕を広げた。それは独り舞台を意識しているみたいな感じで、時々は舞台に上がっていた光景を思い出す。

「どうだ? 瑠偉、木の桜は好きか?」

「人並みには……」

「そうか……桜は美しいと思うか? 昔のやんごなとなき方々は桜よりも梅を愛でていたことは知っているな? いつからか日本人は桜を美しいものとして認知し愛で続けている。どうしてだと思う? どうして俺たちは桜を美しいと思うのか。霧島桜、どうだ?」

 京堂さんの引きつった顔が私に向いた。

「メディアと経済……大衆による集合的な認知ではないでしょうか」

「ほう? 畢竟、桜や絵画……芸術品を美しいと思うのは誰かの影響というわけか」

「はい。私の偏見ですが、美しいという言葉は大衆や経済を動かすことが出来る言葉だと思ってます。芸能人が桜は美しいと言えば、影響を受けやすい大衆はそれを美しいものと認知します。そして集団的心理……この美しさがわからないとは可哀想、文化人ではない、仲間はずれだ、という意識が発生する。それが多くなり、興味がない、美しいとは思わない、と認知する大衆たちを突き抜けた時、孤立を恐れて誰もが美しいと口にします。何がどう美しいのかわかりもしないまま。経済に関しては、美しいものは大金を出してでも欲しい人や、展示される美しいものを見に行こう、となりますからね」

「はは、面白い意見だな。確かに、影響されやすい奴らは昨日まで知りもしなかったものを美しいと賞賛するな。流行が良い例だ。瑠偉は? どう思う」

「儚く散るから美しいって……言いますよね。でも……それって儚くないものは綺麗じゃないって言われているような……気がします」

「ああ、そうだな。だが、俺は限られた命を輝かせて死んでいく光景を美しいと思ってる。最期が美しいままなんて最高じゃないか?」

 京堂さんはそこまで言うと、壊笑を百面相みたいに沈めて、私と瑠偉を交互に睨んだ。

「だが、その美しい瞬間を終えた時……木の桜はどうなる?」

「枯れます……」

「その通り。そして……枯れて汚くなった桜を誰も美しいとは言わないだろう? どうだ? ああ、あの時は美しかったのに……なんて馬鹿馬鹿しい言葉を吐くのさ」

「京堂さん……それは……」

「いいか? お前たちは美しい……今のお前たちは桜で例えるのなら満開だ。だが、必ずその美しさは衰え……汚く死ぬ時が来るんだ」

「京堂さん……! 人が衰えるのは当然――」

「それで? お前たちは思うのか? 儚い命でも精一杯生きているその姿が美しいって……そんな馬鹿な。汚く老いたのに何が美しい? ソーマはおそらくそれを嫌ったから、衰えて死ぬという滅びから逃れるために、この空間を作ったんだ。そして……永遠に美しいまま人形たちと生きていきたかったんだと俺は思う」

 京堂さんは口を閉じると、額を押さえながら文字通り、クックッ、と歪な笑いを発した。

「ふふ……もしそうだとしたら、俺がこの機巧人形劇団に込めた想いと同じだな……! 永遠の美しさを纏い、愛する人たちと存在し続けるための――」

「それは……アキの願望でしょう……?」

 不意に室内の奥から声がした。それと同時にカーテンの一つを勢いよく開いた西条さんが姿を現した。彼女の目は赤く腫れていて、頰には微かな痕が見える。

「願望でしょう……? 叶いもしない幻を追いかけてる……」

 左手を握り締めたまま西条さんは京堂さんを睨みつけている。その後ろには大小様々な棺が立てかけられている。あの中にも途中の人形が眠っているんだろうか……。

「ふん。願望か……そうだな、俺個人の願望と言えばそうなるな」

 京堂さんは露骨な溜め息を吐き出しながら、西条さんへ向き直った。

「お前のことも……気にかけていたんだけどな。淳が消えた日から……」

 知らない人の名前に私は瑠偉と目を合わせた。口ぶりからして生きている様子はないんだけど、何故か京堂さんは笑みを浮かべている。

「淳が消えたのに……どうして笑ってるの? 嬉しかったの……?」

「ふん。ずいぶんな言い方だな……。繁華街で馬鹿に絡まれていたあいつと一緒に暴れてからずっと親友さ。死んでほしいなんて思っちゃいなかった。むしろ……また大切な人が消えたと嘆いたさ。だが……お前だって〝俺と同じ考え〟に至っただろう?」

「それは……」

「淳はここに迷い込んだ末に凍傷で死んだ。当主様と葵に感謝するんだな。二人のおかげで淳は役者になる前に荼毘に付された。その指輪を大事に隠していてくれたんだから。さて……瑠偉、どうだ? この屋敷で……俺たちと永遠に生きる気はないか? ここならお前は永遠に美しいままだ。くだらない生き物が蔓延る現実のしがらみも、死の悲しみもないんだ。俺が芝居で作り上げ、客たちが恋い焦がれる幻想の世界がこのリュシテン邸だ」

 迷子になった子供をあやすかのような口調で瑠偉に語りかける京堂さんだけど、悪魔のカードを経由した私には、口の巧い悪徳セールスマンにしか見えない。

「京堂さん……綾香さんはどこ?」

 既に舞台から退場したよ、そう言うと思っていたんだけど、予想に反して返って来たのは肩をすくめる動作だけだった。

「綾香は……ここにいるよ。クスリで眠っているけどな」

 京堂さんは隣に置かれた棺を一瞥した。

 私と瑠偉はその棺に駆け寄り――眠り姫みたいな綾香さんを見た。外傷は増えておらず、衣服を弄られた感じはしない。頭に巻かれた包帯の一部は赤黒く変色していて、医務室の血は間違いなく綾香さんのものだったのかもしれない。

「綾香さん……生きてるんですか……?」

「ええ、生きていますよ。私は無理強いなんてしない。迷い人と交渉したうえで、入れ替わろうと思っている。京堂君と交渉するには……彼女の死が危険だと思って隠していたのさ。その頭と医務室の血は予想以上に抵抗されて……やむを得ずだ」

「桜、お前はどうだ? この世界で俺たちと永遠に暮らそう」

「……螢さん、あなたは望んでこの世界に?」

「ええ、そうですよ。一九四二年……妻と一緒に屋敷を訪れた。先代から誘いを受けて入れ替わったが……妻は次第に永遠を悲観するようになって……自殺した」

「自殺……自殺なんて出来るんですか?」

「入れ替われる相手がいない場合は……君が滞在していた時のように人間でいられるが、人形たちが抱く殺しの衝動は抑えられない。ずっとこの部屋にいるはずだったのに……ずっと一緒だと約束したのに……彼女は拳銃で頭を撃ち抜いた」

 螢さんは遥かを見るように目を細めると、小さく息を吐いた。その姿は何だか生きることに疲れてしまったおじいちゃんのようで、奥さんに先立たれた人の哀を感じる。

 その溜め息がリュシテン邸と人形化の全てを物語っている。永遠なんて人には過ぎた願いだし、時間という概念から切り離されても精神的な老化は避けられないんだと思う。それだのに、永遠に芝居を続けるなんて地獄でしかない。それだのに、

「でも俺たちは違うだろう? 俺はお前たちが一緒ならどこでも生きていける……車も愛里も俺たちが来るのを待ってる」

 今の京堂さんには溜め息が届いていないみたいだ。天龍さんも愛里も殺され、綾香さんもこんな状態なのにどうかしてる。芝居の草案、発言、趣向、大淀さんの発言と悪魔のカードからして、おそらく取り憑かれている……。死という――当たり前の別れの恐怖に。

「京堂さん、綾香さんと別れた理由って……螢さんが言ったことじゃないですか?」

 一瞬、京堂さんは眉を顰めた。

「推測です……京堂さんは他者との別れが耐えられなくてウロボロス――永遠の命を求めた。人が人である以上は得られないし耐えられない……都合の良い幻で叶いもしない妄想に取り憑かれている京堂さんを綾香さんは見ていられなかったんじゃないですか?」

「なっ……」

 子供をあやすみたいな見せかけの笑顔は消え、京堂さんは明らかに狼狽した。

「それでも……綾香さんはあなたを愛していたから劇団を辞めなかった。それが願望をより増長させて……螢さんからこの屋敷のことを聞いた瞬間に……いずれ離ればなれになる私たちも巻き込もうと思った……違いますか?」

 私がそう告げると、京堂さんは今まで私たちに見せたことがないほど口を歪めた。

「桜……お前はどっちなんだ。俺はお前たちを愛している。お前たちがどう思おうと……俺は大切な家族だと思っていた」

 一歩を踏み出す京堂さんから、家族から、私は後退りした。

「私も……同じ気持ちです。劇団のみんなが好き……ずっと一緒にいたいと思うこともあります……だけど、いつか離ればなれになる覚悟は……しています」

「ふん。どうして覚悟出来る? 好い人と離れるのは嫌だろう? いくらお前が死や別れに対して感覚が麻痺していようが」

「……どうして覚悟出来ませんか? 少し前……満君に言っていたじゃないですか。儚いからこそ輝く美しさがあるって。それなら、限りある命が美しいというのが京堂さんの考えです。それなのに……永遠に生きようと言うんですか?」

 揚げ足を取るつもりはない。だけど、京堂さんの主張はめちゃくちゃだ。永遠に生きていようと願うのに、儚いからこそ輝く命がある、なんて言うんだから。

「桜、お前は……!」

「大淀さんも愛里も天龍さんも死んだ……殺されたのに喜ぶんですか? ずっと一緒にいられるって……綾香さんにも言いますか? 一緒に死んで……永遠に生きようって……」

「ああ……そうさ!」

 京堂さんは激しくかぶりをふる。自暴自棄のような乱暴さが垣間見えたそれは、今にも癇癪を起こして暴れそうに見えた。

「美しさなんてどうでもいい……逃げ場なんてないぞ三人共!!」

 顔を歪ませたままそう叫んだ京堂さんは、腰に手を伸ばし――拳銃を取り出した。

「南部の十四年式……何で?!」

 破壊的な銃口が私に向けられた時、瑠偉が叫んだ。

「医務室で見つけたんだ。軍服を着た十文字誠也――いや、一九四五年に行方不明になった帝国軍人の大向達郎おおむかいたつろうの写真と一緒にな。動くなよ? 今すぐに発砲しなかったのは情けだ」

 京堂さんは声を荒げながら、私たちを一列に並べた。

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