第2話

「そんなに俺の右目が欲しいか?」

その顎鬚を長く伸ばした男は殆ど絶唱するように

震えながらそう叫んだ。

「まあね、マズイだろうけど食ってみりゃ

意外においしいかもしれないしね」

 黒いサングラスを掛けたロン毛の女は

そう嘯くと、左指をポキポキと鳴らし始めた。

「右目くらいくれてやる。その代わり人類を救うと

約束してくれ」

「悪いけど、約束はできないわ」

女はそう言うと、オトコを壁ドンした。

「そっ、それじゃあ、ダメだ。右目は渡せない」

「渡すんだよ、お前は。右目も左目も」

「そっ、そんな」

男が女に口答えしようと試みた。

「それだけじゃない。顔も手足も胴体も

陰部も。すべて俺のもんだ」

「ひいいいいいいいいいいいいっ」

女が男の顔を手で鷲掴みにして千切り取った。

それからもてあそぶように男の両腕を

千切り、両足も千切り取った。

「ヒっヒッヒッヒっ。これでまたコレクションが増えた」

女はそう言うと、夜の闇に消えて行った。



「外間道、この記事よく書けてるな」

週刊誌、報徳毎日はガセネタぎりぎりの記事を

掲載して、読者のハートを鷲掴みにしていた。

 編集長の柳田和馬がいつものように

外間道誠也に労いの言葉をかけた。

「まあ、軽いもんっすよ」

誠也が軽い調子でそう答えた。

「俳優の蔵原みどりはカニバリズム、つまり

人肉嗜好者だった、か」

「ええ」

「キチンとウラは取れてるんだろうな?」

 柳田がソフトな感じで聴いてきた。

「もちろん。っていいたいところですけど、半分

ガセです」

「そうか。まあいい、週刊誌は売れたもん勝ちだ。後の

尻ぬぐいは俺がしてやる。オマエは好きなように

書け」

柳田が懐の深いところを見せた。

「ありがとうございますっす」

「ああ、オマエ宛に手紙が届いてたぞ。差出人不明。

オマエの別れた彼女か何かじゃないのか」

「そんなもんいないっすよ」

 誠也は手紙を受け取ると封を切って

中に入っていた便箋を広げて読み始めた。

「宇宙は今、ある怪物に食べられています。全宇宙が喰いつくされるまで

に二年と持たないでしょう。これは心ある者からの

慈悲深いやさしい警告です」

「何だ、そりゃあ」

柳田がしかめっ面をした。

「いかにうちがガセぎりぎりのスクープばかり

扱ってるからって、そんな記事載せたら

読者に総スカン喰らうよ」

「そうですね」

誠也はしばらく手紙を握り締めて立ち尽くしていた。

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怪物のスクープ @k0905f0905

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