第2話
「ナゼ、オレの体が欲しい?」
男が女に疑問を投げかけた。
「本当は宇宙空間が食べたいんだ」
女が真顔でそう言った。
「宇宙空間?」
男は女が気が触れているのではないかと思った。
「そうだ。しかし、今は人間の肉で我慢している」
女が不満そうにそう告げた。
「どうして?
男がまた疑問を投げかけた。
「だって、人間はいなくなっても困らないけど
宇宙空間はなくなったら困るじゃないか」
女が妙な理屈をつけてきた。
「そんなに俺の右目が欲しいのか?」
その顎鬚を長く伸ばした男は殆ど絶唱するように
震えながらそう叫んだ。
「ほしい、マズイだろうけど食ってみりゃ
意外においしいかもしれないしね」
黒いサングラスを掛けたロン毛の女は
そう嘯くと、左指をポキポキと鳴らし始めた。
「右目くらいくれてやる。その代わり人類を救うと
ここでキッパリ約束してくれ」
男が同意を求めるようにそう言った。
女は何がおかしいのかクックックッと喉で笑って
相手にしなかった。
「悪いけど、そんな戯言、約束はできないわ」
女はそう言うと、オトコを壁ドンした。
「人類は早かれ遅かれ滅亡する運命にあるのよ」
女がそう言ってまた指をボキボキと鳴らした。
「そっ、それじゃあ、ダメだ。右目は渡せない」
男が体を激しく揺さぶって抵抗した。
「渡すんだよ、お前は。右目も左目も」
女が容赦なくそう要求を突き付けた。
「そっ、そんな」
男が女に口答えしようと試みて顔面蒼白になった。
「それだけじゃない。顔も手足も胴体も
陰部も。すべて俺のもんだ」
女が凄い顔でニヤリと笑った。
「ひいいいいいいいいいいいいっ」
女が男の顔を手で鷲掴みにして千切り取った。
それからもてあそぶように男の両腕を
千切り、両足も千切り取った。
「ヒっヒッヒッヒっ。これでまたコレクションが増えた」
女はそう言うと、夜の闇に消えて行った。
「外間道、この記事よく書けてるな」
報徳毎日編集長の柳田和馬が週刊誌のページを
捲りながら外間道誠也にそう言った。
週刊誌、報徳毎日はガセネタぎりぎりの記事を
掲載して、読者のハートを鷲掴みにしていた。
編集長の柳田和馬がいつものように
外間道誠也に労いの言葉をかけた。
「まあ、軽いもんっすよ」
誠也が軽い調子でそう答えた。
「俳優の蔵原みどりはカニバリズム、つまり
人肉嗜好者だった、か」
柳田が雑誌をパラパラと捲りながらそうつぶやいた。
「ええ」
誠也は確信に満ちた顔で柳田の賞賛を待った。
「キチンとウラは取れてるんだろうな?」
柳田がソフトな感じで聴いてきた。
「もちろん。っていいたいところですけど、半分
ガセです」
誠也がペロッと舌を出した。
「そうか。まあいい、週刊誌は売れたもん勝ちだ。後の
尻ぬぐいは俺がしてやる。オマエは好きなように
書け」
柳田が懐の深いところを見せた。
「ありがとうございますっす」
誠也もその気だった。
「ああ、オマエ宛に手紙が届いてたぞ。差出人不明。
オマエの別れた彼女か何かじゃないのか」
柳田が一通の手紙を握り締めて誠也に手渡した。
「そんなもんいないっすよ」
誠也は手紙を受け取ると封を切って
中に入っていた便箋を広げて読み始めた。
「宇宙は今、ある怪物に食べられています。全宇宙が喰いつくされるまで
に二年と持たないでしょう。これは心ある者からの
慈悲深いやさしい警告です」
読み終えた誠也が顔を曇らせた。
「何だ、そりゃあ」
柳田がしかめっ面をした。
「いかにうちがガセぎりぎりのスクープばかり
扱ってるからって、そんな記事載せたら
読者に総スカン喰らうよ」
柳田が手をヒラヒラとさせた。
「そうですね」
誠也はしばらく手紙を握り締めて立ち尽くしていた。
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