破裂
ベイビーブルーの空に赤い風船が飛んでいってしまいそうだったので、思い切り手を伸ばしてみた。括りつけられた紐が指に引っ掛かった。風船は逃げようとするように身を激しく動かした。が、指を輪っかにして取れないようにしたので、やがて落ち着いた。何で飛んでいこうとするのか聞いた。風船は少し膨らんで答えた。
地上がイヤだからだ。
なぜ嫌なのか聞いてみた。
もうすぐ恐ろしいことが起こるから
木々がざわめいた。
恐ろしいことって何なのか。
人が沢山傷付いて、最悪死ぬ。
そんなこと起こるはずがない。
現に起こってる。
風船は無理矢理飛んでいこうとさらに膨らんだ。紐も伸びた。そばにあったガラス張りのビルに赤い体が映って揺れた。でも君は地に足はついてないから地上にいても問題はないんじゃないか、と聞いてみた。
それは僕も思った。
じゃあどうして?
見たくないから。
空に行ったって何もない。
飛行機が音と雲を残して頭上を通り過ぎる。
少なくとも何かはあるよ。
例えばどんな?
ああいうのとか。
風船は右に体を傾けた。そっちを見てみた。そっちには何もなかった。ただ道が続いているだけだった。と、視線を戻すと風船はいなくなっていた。上を見ると、ひそかに指から抜け出した風船が空に登って行っていた。
じゃあね!
風船は青い空に点となって消えた。そして、しばらくぼうっと風船が消えた辺りを見ていると、小さな破裂音が聞こえたような気がした。そのまま、空を見続けた。何時間も見続けた。次第に空は赤くなり、夜が訪れようとしていた。まだ空を見ていた。すると、空から赤い何かの破片がひらひらと降りてくるのが西の方に見えた。破片はアパートの上をフワリと飛び越し、やがて夕陽の中に突っ込んで溶けて無くなった。公園のほうから、子供たちの笑いや親たちの会話が微かに聞こえてくる。静かな路上を一台のトラックが走ってビルの向こうへ消えていった。誰も破片に気付いた人はいないようだった。そして五時のチャイムが鳴って、帰ることにした。道すがら、この街が破裂するところを想像した。
夢見る小さな夢 トロッコ @coin_toss2007
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。夢見る小さな夢の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます