第16話 嘘つきな、子供な大人
「ここで問題ないか?」
「はい!新たな地、感謝します。ヴェールト様。」
「先住のやつらとうまくやれよ。」
ヴェールトはブラックドックとアルミラージを自らの領域に迎え、新たな住処を与えた。
礼を述べる彼らと別れたヴェールトはこの近くに人間の子供を保護している原頭の村があったため、そこへ足を運ぶことにした。
原頭の村民たちは急に訪れた獣の長に驚いたが喜んで迎えた。
「ヴェールト様、お久しぶりです!」
「ヴェールト様だー!」
盛りあがる村民たちに応えながら、ヴェールトはナダの家に向かった。
「ナダ、元気にしてたか?」
「ヴェ、ヴェールト様?!これのせいでにおいがわからなかった……!」
慌てて出てきたナダの格好に、ヴェールトは思わず吹き出した。
「クククッ!随分可愛らしい格好してるな!」
ナダの今の格好はエプロン姿であった。逞しい虎が可愛らしいアップリケやらが付いたエプロンを着ている。ヴェールトにとってそれは大笑いするのに充分だった。
「これは……これにはわけがありまして……!」
「ハハッ!そんな可愛らしい格好はクララにでもしてもらえ!」
「何故そこで私が出てくるのですか?!」
奥から慌ててクララが出てくる。
「何故って……お前ら夫婦だろう?」
「違います!」
ヴェールトの夫婦発言に、ナダとクララは同時に大声で否定した。
「ほう……。」
ニヤリとしながらそんな二人を見るヴェールトにエプロンを外したナダが尋ねる。
「ヴェールト様!俺なんかに何のようでしょうか?!」
「なに、お前の家に人間の子供がいるだろう。そいつを見に来ただけだ。お前らの格好とこの匂い……パイでも作ってたか?」
「は、はい。……ユウ、おいで。」
クララが家の中に向かってそう声をかけると、家具に体を隠しながらおそるおそるこちらを見る幼い人間の子供がいた。
ヴェールトと目が合うと、その子供は素早く隠れてしまった。その様子にクララがユウに近寄っていく。
「ユウ、あの方は獣の長のヴェールト様よ。とてもお優しい方なの。もう少しあの方にユウの姿を見せられないかしら?」
クララが屈み語りかける先には先程己と目が合った子供がいるのだろう。
クララがユウと呼ばれた子供の手をとっている姿がみえた。必死の説得に、クララに導かれヴェールトの前にユウがやってくる。
「よお、お前がナダたちが保護した人間だな。」
「う、うん……。ナダお兄さんが僕を助けてくれたんだ……。」
緊張しているのだろう震える子供をじっと見つめた。
「ユウと言ったな。お前のその腕輪はどうした?」
「え……?」
「その右腕に付けてるやつだ。見せてみろ。」
ヴェールトの言葉に、ユウは震えながら右腕をまくってみせた。
そこには立派な装飾の腕輪が付けられていた。
気の毒になるくらい震えるユウにナダが助け舟を出す。
「この腕輪はユウが大切な人から貰ったものだそうで……!その、ユウが身につけるのには不自然なものだと思いますが、そういう理由があって……!」
クララもユウを庇うように前に出ていた。
ヴェールトはそんな光景にため息を吐いた。
「なんだお前たちは。俺がその子供を噛み砕くとでも思ってるのか?」
「そ、そのようなことなど思っておりません!」
「態度に出てるんだよ。まあやることはやったから俺はもう行く。ナダとクララ、お前たちはさっさと結婚してお前たちの子供を持て。」
「ヴェールト様!!」
顔を真赤にしながら抗議する二人に別れを告げ、原頭の村民たちとも別れる。
その夜、川の近くで野宿をすることにしたヴェールトはそこで採った魚を数匹食べるとその残骸を埋め、川に紙を流して目を閉じた。
数日後、ユウはクララに言われて村の近くの泉に水を汲みにきていた。ここの水には魔力がよく溶け込んでいて、特別な薬草を作るのに使うと良いのだ。
「そろそろ少しずつ村の外の世界に慣れないとね。」
というクララの気遣いだった。
ユウが水を汲み終え帰ろうとすると、後ろから美しい女性の声が聞こえてきた。
「あなたが原頭の村の子供よね。」
その声にユウが振り返ると、上半身は馬で尾が魚の姿をしたものに乗った美しい女性がいた。
魚の長、ラスティーである。
「はい……。僕は原頭の村でナダお兄さんと暮らしてます。」
「そう、それは良いわね。」
そう言うラスティーの周りにはニクシーやニクスなど水の精霊たちが集まっていく。
それを見ながらユウはじりじりと泉から遠ざかる。
「何故逃げるのかしら?私も彼らもただここにいるだけよ。」
ニクスとニクシーはクスクスと笑いながらユウの周りを囲んでいく。
ユウは水の入った桶を投げ出して逃げ出した。
が、それはラスティーの魔法によって阻まれた。
「くっ!」
ユウは別の方向に逃げようとしたが、次々と魔法で阻まれ、その場にはユウを囲う魔法の檻ができていた。
「随分必死になって逃げたわね。」
「ど、どうしてこんなことするんですか……!」
その言葉にラスティーはやれやれと肩を竦めた。
「私も無垢な子供にはこんなことをするのは嫌よ。でもね……。」
ニクスとニクシーがユウの腕輪をとる。
「?!腕輪を返せ!」
手を伸ばしたユウにラスティーが魔法でさらに拘束する。
「嘘つきな人間にはこのくらいしても許されると私は思うのよ。」
「ねえ、あなたは本当は誰なのかしら?」
ラスティーはそう冷たい声で目の前の人間に言った。
ラスティーの目の前には幼い人間の子供ではなく、嘘つきな大人の人間がいた。
異世界魔族事情 永遠 @WhichTowa
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