第15話 プレーグの森の魔女と弟子

 「おかえり、ハルバード。王都は楽しめた?」

白い鷹に老婆はそう語りかけた。





 プレーグの森の奥深く。滅多に人間が立ち入ることのないこの場所には小さな家がある。ここに住んでいるのは魔女のトゥルペとその弟子、バーベナだった。


 

 「何か情報は掴めたかしら?」

ハルバードと呼ばれた鷹は鳴き声をあげる。

 トゥルペはそれに何度も頷くと、

「そう、あなたは勇者を何人も見たのね。」

と返した。それにハルバードはまた鳴いた。


 そんな様子を弟子のバーベナは不思議な顔をして見ていた。


 「お師匠様はよくその鳴き声でハルバードが何を言ってるかわかりますね……。」

 「ふふふ、私とハルバードの仲ですもの。このこの言いたいことくらいわかって当然よ。……あなたにもこのこのような相棒ができるわ。」

トゥルペはハルバードを撫でながらそう言った。

 




 魔女。人間でありながら魔族にも劣らない魔力を持った存在といわれた彼女たちはかつて人間と共に在り、その力で多くの人間たちを助けた。

 人間たちは魔女たちに感謝したが、時が経つにつれ、彼女たちを恐れ迫害するようになった。

 そうして魔女たちは人間の土地での居場所をどんどん失い、人間が立ち寄りにくい辺境の地へ住処を移した。


 トゥルペはそんな魔女たちの末裔の一人であった。

 



 「私にもそんな相棒ができたら良いんですけどねえ……。炎の精よ、私に力を貸して……!」

バーベナが両手に力を込めてそう言うと暖炉の薪が音を立てて燃え始める。それに対してトゥルペが拍手した。

 「バーベナも成長したわね。前までは手先に火が灯る程度だったのにここまでできるようになって……私、とっても嬉しいわ。」

それにバーベナは

 「うー!昔の話しは忘れてください!」

と顔を真赤にして抗議した。



 「あら、あなたの大切な歴史よ。忘れないようにしなきゃ。」

トゥルペは笑った。





 魔女はどう足掻いても人間である。しかし今の人間たちの認知は"魔女は魔族"であった。

 その理由はその高い魔力にあった。

 何故彼女たちにはそんなに高い魔力があるのか。それは力を貸してくれる精霊たちに感謝を忘れず労り続けているからだ。


 この世界には魔力を持つ生き物がたくさんいる。それらは自分の持つ魔力を自由に使うことができるが、自分が持つ魔力以上の力を使うには他から補ってもらう必要がある。

 多くの人間たちはその多くを精霊たちに補ってもらっている。精霊たちは魔族にも人間にも平等に力を貸したが、感謝をしたりしてくれるものに多く力を貸したくなるのは当たり前だろう。

 精霊たちは感謝を怠らなかった魔女たちには他の人間たちに比べて力を貸した。

 それにより、魔女たちは人間たちと同じ力を持ちながら高い魔力を使えるようにみえるようになった。

 そして、魔女たちの今がある。






 「にしてもハルバードは暫く帰ってこなかったですけど、何させてたんです?」

薪を焚べながらバーベナは師匠であるトゥルペに尋ねた。

 「ああ、ハルバードにはレスリア帝国まで飛んでもらって"あること"を調べてもらっていたのよ。マルベーリからのお願いでね。」

その言葉にバーベナはギョッとした。

 「マルベーリってあの魔王マルベーリです?!」

 「そうね、魔王マルベーリね。」

あっけらかんと編み物をする師匠に弟子であるバーベナは啞然とした。


 「お、お師匠様様がすごい人だとは知ってはいたけど……まさか魔王とも知り合いだとは思わなかったですよお……。」

 「言ってなかったかしら?私とマルベーリは、私が魔女になると決めたときからお友達なのよ。」

 「魔王とお友達……。」

 「ええ、あの方は焼き菓子が好きでね……ああ、また焼き菓子をプレゼントしようかしら!」

トゥルペはそう言うと台所から道具や食料を取り出し始めた。鼻歌を歌いながら焼き菓子を造り始めたトゥルペをバーベナは呆然と見ていることしかできなかった。

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