第14話 幼きシルキーの双子
ありとあらゆる問題を抱えながら生きるのはどの生物も変わらない。ただし、その多さには個々に違いがあった。
魔王マルベーリの抱える問題の数は多い。王という立場上、それは仕方のないことである。
マルベーリは優先度の高い問題から解決するようにしていた。その優先度の高い問題の中に"レスリア帝国の異世界人召喚"の件があった。マルベーリはこの問題に早く手をつけたかったが、日々問題が報告され優先度の高い問題も増える。
レスリア帝国の件は魔族の国のトップたちにしか話していないため、中々他のものの手を借りることはできず、だからといって他のものに話せば混乱が起きまた問題が起こることは火を見ることより明らかだった。
今日も報告書を見ながらマルベーリは各地で起こる問題解決に勤しむのであった。
そんなマルベーリをリーリエとフランはこっそりと見ていた。
「マルベーリ様、今日も忙しそう……。」
「私たちがここで働き始めてから毎日書類とにらめっこしてるね……。」
リーリエとフランがここに来たのは数ヶ月前ほどのことだ。彼女たちが元々住み着いていた屋敷の主に愛想を尽かして、次の住処を探していたときに声をかけたのがマルベーリだった。
「お主たちシルキーが来てくれれば我の城のものたちが助かる。我が城でその力を振るってはくれないじゃろうか?」
「お、王様がどうしてこんなところに?!」
自分たちの王であるマルベーリとこんな場所で会うと思っていなかった二人は驚いた。ここは王都と離れた場所にある森の中である。そして王は従者なども連れずにたった一人。二人が驚くのも無理はなかった。
「どれ、着いてきてみよ。」
そう言うとマルベーリは歩き出した。困惑しながらもマルベーリのあとを二人が着いていくと、美しい花畑に着いた。
「うわあ……すごい……!」
「とっても綺麗……!」
今まで屋敷から出たのは洗濯物を干すときくらいだった彼女たちがこんなに大きな花畑を見るのは初めてのことだった。
そんな二人の姿を見てマルベーリは微笑むと、
「見事なものじゃろう。この月露花はこの時期が最も見頃でな。ここは我が見付けたとっておきの月露花の花畑なのじゃ。」
そう言って近くの大木の下に腰をおろした。
「王様はこれを見にわざわざ来たの?」
「そうじゃよ。これは見に来る価値のあるものじゃろう。」
ワイワイはしゃぐ二人の疑問にそう答える。
「王様だったらお城の近くにこのお花を植えればいいのに。」
「我が城は月露花が美しく咲くのに適しておらんのじゃ。美しいこれらを見たいのは我じゃ。ならば我がここに出向くのもまた、これらに対する礼儀であろう。」
魔法で一輪、手元に置いたマルベーリは花の匂いを堪能する。
「ところでお主ら、我が城に来るのか来ないのかどっちを選ぶのじゃ?判断はお前たちに任せるぞ。」
その言葉にリーリエとフランは顔を見合わせた。
「我はシルキーであるお主らが来てくれると助かるのじゃが。」
シルキーは住み着いた家の家事や手入れをする妖精だ。マルベーリはこの時働いてくれていた二人の魔族が結婚、妊娠したことにより人手不足を感じていたのだ。
「私たちでも王様の役に立てる?」
「もちろんじゃ、お主らは大活躍するぞ!」
笑いながらマルベーリはそう応えた。
そんな王を見て、彼女たちはマルベーリの城へ行くことにしたのだった。
彼女たちはそれは頑張って働いた。
マルベーリを筆頭に周りの人たちは彼女たちに優しく、城の手入れはやりごたえがありとても楽しく城にいられたのである。
それから数ヶ月、彼女たちはマルベーリが休んでいる日をみたことがなかった。毎日届けられる書類たち。休むことなくそれらと向き合うマルベーリに、彼女たちは心配を募らせていた。
「リーリエにフラン、何か用かの?」
「?!」
こっそり見ていたのでまさか認知されているとは思わなかった二人は驚いた。おそるおそる顔を出す二人にマルベーリは苦笑した。
「まったく……なんて顔をしておるのじゃ。」
「……マルベーリ様、邪魔しちゃってごめんなさい。」
「マルベーリ様が全然休んでないから、心配で……。」
そう聞いたマルベーリは二人にソファに座るように促した。
「我がお主らを邪魔と思ったことなどないぞ。それに休みならとっておる。こうしてお主らと話すことが我にとっての休憩じゃ。」
「こんなことでマルベーリ様は休まってるの?」
「こんなこと、か。我にとってはかけがえのない時間じゃがなあ。」
「何が休みになるか、それはそのものによって異なる。外に出て遊ぶことが休みになるものもいれば、ひたすら寝ることが休みになるものもいる。」
「マルベーリ様のお休みは……こうして私たちと話すことなの?」
「ああ、お主らを含め他のものと話すことは我にとってはとても大切なものなのじゃ。」
そう言ってマルベーリは二人の頭を優しく撫でる。
「でもマルベーリ様にはもっとしっかり休んでほしい……。」
彼女たちはマルベーリが朝早くから夜遅くまで職務に励んでいることを知っていた。
「そう思ってくれるものがいる我は幸せものじゃのう!」
「ふわあ!」
マルベーリはわしゃわしゃと二人の頭を撫でた。
「我が行ってることは我が背負わねばならぬ責任なのじゃ。大いなる力には大いなる責任が伴う。この責任を背負えぬものに大いなる力を使う資格はないのじゃ。」
魔族の国の王は幼き妖精たちに愛おしそうに見つめるのだった。
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