第7話
「で、今年の8月、夏の真っ盛りに、君は亡くなったんだ」
君がいなくなって、1ヶ月半もたつ。自分でも不思議だけれど、僕はどうにか、立っている。医療系の大学の課題の多さが、今だけは救いかもしれない
「もう少し、生きられる気がしてたんだけどなぁ。いきなり現れてびっくりしなかった?」
「君のことは、ずっと考えているから。また君に会えた嬉しさこそあれど、驚きはしないよ」
これは僕の心が生み出した幻なのだろうか。それとも霊的なものなのだろうか。どちらでも良いか、また会えたのなら。
勘が良い君は先回りして疑問に答える。
「今日が四十九日だからね。四十九日までは魂は現世にいるらしいよ」
「……だったら、もう少し…早く出て来てくれても……」
「ふふ、私にも分からないことだらけなのよ。いきなりあなたの車に乗っているんだもの」
確かに、いきなり現れるというのはいかにも君らしいように感じる。
「こうして君が出てきてくれてよかった。実は、仏壇の前じゃ他人行儀になっちゃって、うまく話せる自信がなかったんだ」
君はいつものにんまりとした笑いで、こちらを向く。
「本当にあなたに会えてよかった。どうにか感謝を伝えたかったんだ。……私の自惚れかもしれないけど、好きでいてくれたよね?」
沈黙で、僕は答える。
「大事な初恋をこんな形で……本当にごめんね。初恋は叶わないってよく言ったもんだね。私の初恋も叶わなかったよ」
彼女はまるでそこに実存するかのように、しっかりと息を吸い込み、続けた。
「でも……本当に楽しかった。あなたは思った通り…思った以上に優しかった。本当にありがとう。いっぱいわがまま言ってごめんね」
僕は今まで、この1ヶ月半、なんとか保っていたものが崩壊するのを感じた。
「……ああああ!!……ぁぁっっ!……ぅああっー!!」
声にならない声は、止まることのない涙は、夜の高速道路に吸い込まれていく。
さっきよりもぼやけたライトがただ前のトラックを照らす。
僕が言いたかった。僕が言うべきだった。何もなかった僕は、人間らしいものは全て君から学んだ。
まだまだ緊張するけど、人と話せるようになったよ。まだまだ君に及ばないけど、自分から行動できるようになったよ。まだまだ勉強中だけど、将来なりたい職業まで見つけられたよ。まだまだ、だけど、僕は君に憧れ、君になりたかったんだ。
「ありがとう。本当にありがとう。言えずじまいだったけど、僕は君のことがとても好きなんだ」
彼女はただ黙ってにんまりとした笑顔をこちらに向けた。
もうすぐ君の家に着く。四十九日の法要は親族だけで行うと聞いたけど、無理言ってお参りだけでもさせてもらおうと思っていた。
多分この奇妙な再開も終わってしまうのだろう。
だから、待ってくれている君のご両親には悪いけど、少しだけ遠回りをして行こう。
多分、今が満開なのだろう。今までわがままを聞いたんだ。最後くらい僕のわがままを聞いてくれるよね。
「彼岸花を見に行きたい」
彼岸花が咲く頃に 小林夕鶴 @yuzuru511
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