第14話 遺物の力

「この感じは…」

「ハチは気づいた?」

「はい。遺物が使われていますね」

「そういうことになるね。あっちも始めたってことね」

「私たちのほうにもかなり来ていますが、まだかなりの数がいるということですね」

「うん。そうみたいだね。そもそも数が多すぎて、どれくらいいるのか正確な数がわからないよ」

「亜衣…口を動かしてないで、手を動かす」

「わかってるって…だからこれを抜くんでしょ?」


表も動きだし、後ろであるこちらの道にいる遺物たちもさらに多くなったように感じる。

それは、亜衣たちも感じているのだろう。

だからこそ、亜衣は剣をしまい、腰に下げていたもう一つの剣を抜き去る。


「行くよ、血の剣」


亜衣はそう言葉にする。

血の剣と呼ばれたのは、遺物だ。

どんな能力なのか?

それについては、亜衣から少し聞いていた。

名前の通り、遺物の剣は血を触媒にして発動する遺物だ。

血を使うことによって、どのようなことになるのかはわからないが、それでも俺たちの使っているアーティファクトとは全く違うものだということがすぐにわかる。


「血の剣よ、広がれ」


亜衣のその言葉によって、剣を地面に突き立てる。

剣が何かドクンと震えたと思うと、銀色だった刀身が、赤く染まる。

そして、それは起こる。

赤い何かが地面から生え、それは角のように尖ったものだ。

その角のようなものは出てきた勢いのまま遺物たちを貫く。

広範囲の攻撃であるそれは、多くの遺物たちを貫いた。

一撃で多くの遺物たちを無効にした亜衣がもっている、遺物の力は強い。

だが、遺物の欠点もしっかりとある。


「亜衣さん?」

「大丈夫、ちょっと血が足りないだけ…」


亜衣は先ほどの遺物を使うことによって、大量の血を失っていたからだ。

だからだろう、さすがに体を支えることがキツイのか、剣を支えにしてなんとか立っている状態だ。

ただ、見えている弱い遺物たちはほとんどが先ほどの攻撃によって倒せている。


「遺物の力は、やっぱりすごいものがあるな」

「震え止まった?」

「ああ…全く戦力にならなくてすまない」

「いいって、あんたが連れてきてくれたハチは戦ってくれてるしね」

「もちろんです。ご主人様には、頑張ってもらうタイミングがきっとくると思いますので」


ハチはそう言うが、俺が戦力になるとは考えられない。

だからといって、何もしないというわけにはいかない俺は、亜衣に声をかける。


「肩つかまれよ」

「う、うん、ありがとう」

「いや、これくらいのことしかできなくてすまないな」

「ううん、そんなこと、気にしてない」


本当にそう思っているのか?

わからないが、俺は亜衣に肩を貸して、立ち上がらせる。

動かなくなっている遺物たちは、心結がその銃で封印してくれている。


「うん、こんなところかな」

「心結、ありがとう」

「いいって、あたしたちにはできないことを、亜衣にはやってもらってるんだから」

「そう言ってもらえるなら、よかったんだけど」

「本当にそう思ってるからね。あたしたちもここからは早く合流しないと」


心結がそう言って、表の道へ行こうとしたときだった。


「あー?本当に、楽しいことになってるじゃねえかよ!」


そんな声とともに、禍々しい気配がする。

大柄の男は、どうやって現れたのかわからなかったが、この場にいた。


「誰なんでしょうか?そもそも、ここは高位の遺物が発生しているから、立ち入り禁止にされているはずですよね?」


心結は不思議そうに言うが、俺はすぐに警戒をする。

だって、男をほんの少し前に見たことがあるからだ。

こいつは、ハチと初めて出会ったときに探しにきていたやつに間違いないだろう。

ということは、ここにやってきた目的というのも、なんとなく想像はついた。

俺は、腰の剣に手をかける。


「おいおい、そんなに警戒するなよ…殺したくなるだろ?」


男はそう言葉にすると同時に、濃密な殺気のようなものを放つ。

なんだよ、これ…

普段では全く感じたことのない圧に、体は萎縮する。

どうすればいいのかわからなくて、動けない俺たちに、男は豪快に笑う。


「ははは!別に今すぐ殺そうとは思わねえよ。だってなあ、せっかくこいつが新しいご主人様を見つけたんだからな!」


男はそう言葉にすると、懐から聖杯を取り出す。

それを持っているということは、俺と同じ聖杯に選ばれた人ということなのだろう。

ただ、俺はここでミスを犯す。

男がもつ聖杯に反応してしまったのだ。

男は、そんな俺の反応を見て、ニヤッと笑う。


「こいつに選ばれたやつがどんなやつなのかが、気になっただけだ。だからな。殺すなんてこと、するわけないよなああ!」


その言葉とともに、男は俺に殴りかかってくる。

俺は、危ないと感じたときには、亜衣をかばいながらも、アーティファクトの剣で防御していた。


「ほう、反応はいいな」

「何をするんだよ…」

「決まっているだろ?楽しむんだよ。だから、わかるだろ?」


男はそう言葉にする。

俺は、心結のほうを見る。

心結は俺が言いたいことを察してくれたのだろう、亜衣に俺の代わりに肩を貸す。

二人が十分に離れるのを見て、俺は構える。


「ははは!選ばれたもの同士、力を確認しあうのが、いいに決まってるよな!」

「そんなことを俺はしたくないけどな」

「でも、今無視すると、どうなるのか、わかっているだろ?」

「ああ…」

「ははは!物分かりがいいやつは好きだぞなあ!」


男は、そう言葉にすると、背中に背負っていた大剣を抜き去るのだった。

遺物じゃなく人と戦う…

だからなのか、体から震えはなくなっていた。

そして、戦いは始まるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 21:00 予定は変更される可能性があります

遺物回収者はすべてを捕食する(仮) 美しい海は秋 @utumiaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ