第27話
数日後。
ここ数日、巡は第三兵団に出勤するバリヤに一緒に連れてきてもらい、魔王城からザックの部屋に訪れていた。
神官の服は返却しなければならなかったので、バリヤに露店で服を揃えてもらい、それを着まわしていた。
「ミウェンさん!!」
「メ、メグル殿!?!」
バリヤの第三兵団の仕事に付き添って転移魔法でザックのところに来た巡は、神官の館のミウェンの部屋を訪れた。
ミウェンはちょうど仕事は休みだったらしく、部屋に現れた巡を見たミウェンは目を剥いた。
「どうしたのですかメグル殿!!神官をお辞めになられて……側役が無くなったので私はどうしようかと……」
「急なことで、すみません。俺、バリヤさんと結婚したんですよ」
「なぜそんな大事なことを急に!?」
「いや、ですよね。俺もそう思いました」
巡はざっくりと事のあらましをミウェンに説明した。
「そ、そうなんですね、結婚式は別の日に……」
「はい。それで、ここ数日、俺はザックさんのところでこれを作ってもらってたんですけど」
巡はじゃらりと懐中魔法陣を取り出した。
盤面に転移魔法陣が施してある、背面が魔石でできた魔道具だ。
「ミウェンさんがキュア魔法が得意なのは知っていたんですが、転移魔法を使えるかがわからなかったので……これ、魔王城への転移魔法なんです」
「まあ……」
「ミウェンさんにはお世話になったし、渡しておきたくて。いつでも訪ねてきてくださいね。結婚式は魔王城ですると思いますし」
「ありがとうございます。何はともあれ、メグル殿が無事で良かったです」
「はい。魔界の貴族の方々と挨拶したのですが、皆さん良い方ばかりだったので魔王城でも気兼ねなく過ごせそうです」
「それは良かった。魔王のご令室としてはどんなお仕事があるのですか?」
「う~ん、何をするのかはまだ知らないんですよね」
「えっ。外出許可はとってらっしゃるんですよね?」
「いや~……」
「え!?!」
ミウェンが信じられないとでも言いたげな顔で巡の背を押した。
「か、帰りましょうメグル殿。バリヤ様のところに……」
ミウェンに押され、部屋を後にしたその時。
「メグル様!?」
「あっ」
「エクストレイルさん」
最悪なことに廊下を歩くエクストレイルとエンカウントした。
「メ、メグル様、どうしてここに!?」
「え!?あの~、バリヤさんに頼んで……」
「魔王様のご令室ともあろうお方がどこにでも簡単に出かけて良いわけないでしょう!どこの馬の骨とも知れない人間に傷付けられでもしたらどうするんですか!!魔界とこの世界とで戦争になりますよ!?」
「あの~、そこまで考えてなくて」
「何を仰ってるんですか!!とにかく、今はバリヤ様の元へお送り致しますから……」
「すみません」
今日どころかここ数日無断で外出していたのだが、バレていなかったらしい。
第三兵団の訓練場まで無事送り届けられた巡は、ミウェンと共にバリヤを待つことにした。
「とにかく、今日はなるべく早くバリヤ様に送っていただいてください」
「わ、わかりました」
「僕は神官のお勤めが午後に残っていますから、バリヤ様に絶対に頼んでくださいよ!?」
「ハ、ハイ」
エクストレイルはプンプン怒りながら去って行った。
こんなに無断外出したのがまずいことだとは知らなかった。
確かに、メグルがこの国で知らぬ間に怪我を負いでもしたら魔王であるバリヤは怒り戦争になるかもしれない。
最初にバリヤに対して人としての恩を感じ、好感を持ったのは巡の方なのに、いつの間にかバリヤの方も巡に対して好意を抱き、それを隠さなくなった。
「ミウェンさんは、午後のお勤めは良いんですか?」
「私は、メグル殿がいらっしゃいますから今日はお休みさせていただきます」
「いいんですか?」
「はい。この間にメグル殿に何かあっても事ですし、元側役ですから、気にしないでください」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
訓練場のバリヤを眺める。
直接の指揮は副兵長のアノマが執っているようだった。
バリヤが遠くから眺めているこちらに気付き、アノマと一言二言言葉を交わしてこちらに向かってきた。
「メグル、どうした」
「バリヤ様、メグル殿を魔王城へお送りしてほしいのです」
「エクストレイルさんに外出がバレて、怒られちゃいまして」
「帰れという事か」
「ハイ。ザックさんも魔力の受け渡しとか用事があったら魔王城に来ていただくよう言っておいてもらえますか?」
「わかった。ひとまずメグルを魔王城に送ろう」
「お願いします」
バリヤが転移魔法を詠唱し、バリヤの足元に魔法陣が展開される。
巡はバリヤと手を繋いで魔法陣の中へ入った。
「ではミウェンさん、ありがとうございました。また魔王城へ来てくださいね」
「はい、メグル殿。近いうちにザック様とお伺いさせていただきますね」
ミウェンに手を振りながら魔法陣に呑み込まれていく。
「メグル、そろそろだ」
「はい、ミウェンさん、本当にありがとうございました」
「ええ、またすぐに!」
巡の背をバリヤが抱き留めた。
魔王城のバリヤと巡の部屋へと戻ってくる。
「メグル、先にシャワーでも浴びるか」
「あ、ハイ。バリヤさんはこれからアルストリウルスに戻られるんですか?」
「いや、アノマ殿に任せてきた。今日はメグルと共に居よう」
バリヤが巡と鼻先を合わせ、唇にちゅっとキスをした。
「わかりました。魔王様」
そんなバリヤに、巡は笑って返事をした。
愛は二の次~スライムが強すぎる~ 水宮恵 @mizumiyamegumu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます