第26話

 翌日、バリヤはザックの元へ巡を置いて魔王城に来ていた。


「俺はカルタスだ」

 オークの青年が自己紹介をする。

 他の貴族もそれに続いた。


「俺はグラン。狼男だぜ」

「あたしはエリーン。サキュバスよ」

「……」

「彼はドラグーン。ドラゴンです。600歳ほどらしいので、この中では最年長になります」


 エクストレイルが、ドラグーンの代わりに紹介した。

 ドラゴンは言葉を話さないらしい。


 転移した先は大広間のようになっており、ドラゴンのドラグーンが出入りできるようになっていた。


「俺はバリヤ=オノルタ。7歳だ」

「存じております」

「魔王には種族も年齢も関係ないのか」

「当代の貴族たちが認めればそれで良いというシステムですので」


 カルタス、グラン、エリーン、エクストレイルが片腕を差し出した。


「契約の魔法の証は手の甲に記されます。バリヤ様が魔界とこの世界の平穏を守る存在であることの証になります」

「俺はスライムに戻ろう」


 バリヤがぷるるんと巨体のスライムに変身した。


「この場合はどこに刻印されるんだ」

「いや、わかりませんけど」


 手の甲も何もない姿かたちのバリヤにエクストレイルたちは困惑した。


「しかし、魔力の塊であるスライムがここまでの体積になるということは、私たちの目に狂いはなかったようです。

 早速契約の魔法を始めましょう」

「わかった」


 彼らが一斉に契約の魔法を唱え始める。

 バリヤはじっと黙って詠唱を聞いていた。

 魔法陣が各々の手の甲に浮かび上がる。

 魔法を唱え終わり、スウッと一人一人の手の甲に契約の証が刻み込まれた。

 ドラグーンの前足にも証は現れた。


 そしてバリヤの巨体の前面にも証が印された。


「これで、あなたは今日から魔王様です。世界のために働いてくださるようお願いします」

「第三兵団は副兵長にも任せることになった。魔王としてはメグルと共に任務に励もう」

「ありがとうございます。瘴気のコントロールや魔物の統率をとるくらいは今の時点でもできるようになっていると思いますから、なるべく勇者の力を借りなくても良いようにお願いいたします」

「ああ。今日から魔王城に住むことになるのか?」

「ええ、魔王様ですから」

「では国に戻り報告して来よう。メグルも連れてこなければならない」

「わかりました。お部屋の準備は整えておきましたのでご自由にどうぞ」


 人型に変身したバリヤは転移魔法でアルストリウルス国に戻る。

 この国でのバリヤは騎士団第三兵団の兵長だ。

 兵長を辞めるつもりはなかったが、魔王として魔界に住み、勤めを果たさなければならなかった。


「メグル」

「ウワッ」


 ザックの部屋に戻ったバリヤは巡に声をかけた。


「メグル、俺は魔王になった。

 これから第三兵団の寮を引き払わなければならないし、魔界にメグルを連れていくために結婚して俺の嫁であることを国に知らせなければならない」

「あっ、えっ、今結婚するんですか」

「そうだ」

「今って、ミウェンさんも居ませんし、魔界の貴族さんたちも居ないじゃないですか!結婚って親しい人や近しい人と一緒に見届けるものなんじゃ……」

「そうなのか?」

「いいじゃないか。今結婚しなよ」


 ザックがポンポンと考えなしに言い放つ。

 バリヤはムードも何の用意もない急な結婚に躊躇いもない様子だ。


「えっ……」


 絶句する巡をよそに、バリヤがメグルの左腕をとった。


 何かバリヤが魔法を唱え始めた。


「えっ、ちょ、待っ……」


 左手の薬指に光によって生成されたリングが現れた。


 バリヤの指にもリングが現れる。


「これで貴様は今日から俺の嫁だ。魔王城に一緒に住むことになる」

「今のが結婚ですか!?!」

「そうだ」

「バリヤさん」

「なんだ」

「また今度でいいですから、絶対、絶対結婚式挙げましょうね」

「わかった」


 明らかに必要性を感じていないような態度だが、二つ返事でOKを貰えた。


「魔法でできてましたけど、指輪の嵌め直しとかってできるんですかね?」


 指輪を外そうとするが、外れない。


 バリヤがドプンとスライムに戻った。


「スライムに戻ってもリングは吐き出せないぞ」

「指輪がッ……!核(コア)みたいになってるッ……!!」


 指輪がスライムの中心で光り輝いているのがスライム越しに滲んで見える。


「それくらい、結婚の魔法は強固なものということだ。これでメグルが他の世界に飛ばされることもなくなるだろうし、仮に飛ばされてもこの世界の魔王の嫁という肩書があればこちらの世界から召喚できる」

「それは良かったです」


 二人は国に今後のことを報告することにし、ザックの部屋を後にした。

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