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 三時間後、R基地に向けて爆撃仕様のMonorgの小隊・四機がやってきた。


 クレマチスが出撃することに隊長は反対しなかった。命令違反を理由に更迭してくるかと思っていたが、そうはしなかった。

「もう一度だけチャンスをやる」と吐き捨てた。クレマチスは内心、鼻で笑ったものの、顔だけは感謝の意を示して出撃していた。


 Monorgは四機。左手の実体弾ポッド、爆撃用の多用途弾を抱えている。爆撃圏内に入る前に撃墜する必要がある。


 Monorgは臨戦態勢。サロゲート小隊の隊形ではオーソドックスな菱形の隊形。

 こちらはR54が修理中であるため、逆三角形の隊形。後方に司令塔たる隊長機を置き、両翼を三番機と副隊長のクレマチス機が担う。


 まず敵側の狙撃から。フォールディングロングガンの火線が飛来する。クレマチスらは隊形を広げる。密集しても残留射線でじりじりと周囲を囲まれて一気に殲滅されかねない。


 火線が隊を分断する。だが手筈は決まっていた。指令すら必要ない。射程に入ったところでGenead側も動く。二連式ロングガンによる射撃戦が始まる。射程ではフォールディングロングガンに劣るが、二連式で機関部の性能に優れるGeneadの方が速射性は高い。火力戦になれば有利だ。


 敵側は回り込むようにしつつ距離を引き離し、射程の有利を確保しようと試みる。だがクレマチス機が敵の副隊長機の右肩口を吹き飛ばす。敵の火力が薄れ、こちらはより大胆に接近できるようになると、次第にMonorg側が不利になる。


 Monorg側が動いた。クレマチス機に集中攻撃、狙撃自体は当たらないものの、周囲に発生する残留射線がクレマチス機を孤立させる。逆三角形の隊形を乱してでも接近して基地防衛を優先するか、それともクレマチス機を待つか。


 隊長機は前者を選んだ。基地防衛に失敗した場合、実働部長の命令に従っただけの自分は責任を追及されないだろうが、ここでクレマチス機を庇って基地防衛を疎かにすれば、その限りではない。


 クレマチス機を放置して射撃戦が始まる。Geneadがギリギリまで接近したのを見計らってから、敵は引き離そうと回り込む動きを止めて、逆にGeneadに対して接近を始めた。フォールディングロングガンの銃身を折り畳んでショートガン形態に変更。中近距離射撃戦に移行する。


 キネティクル火器の特性上、銃身が短くなるほど速射性が上がる。Genead一機だけではMonorg三機のショートガンの制圧力に対応しきれないと判断したようで、後方の隊長機のGeneadが前衛に上がろうとする。クレマチスの左斜め後方、三番機は前を向いており見ていない。その瞬間、隊長機の右手の火器が火を噴く。クレマチス機に向けて。


 想定していたクレマチスは敢えて肩の装甲で受ける。振り向く三番機が様子を確認する。


 失敗に戸惑うように、半秒ほど凍りつく隊長機。完全に油断しているはずのクレマチス、味方がいる方向からの射撃を受けて、肩装甲が弾き飛ばされるだけに終わったのは想定外だったのだろう。混戦になれば言い訳が立つとでも思ったのか。


 言い含めていた通りの展開、三番機から射撃が飛ぶ。隊長機の周囲を囲むように。これも言いつけ通りだった。万が一を考えれば、責任を追及されるのは三番機の操作者ではなく自分であるべきだ。クレマチス機から放たれた二連の火線が隊長機を貫く。崩れ落ちる隊長機。


 K推進装置作動。残留射線の切れ間まで後退してから回り込み、クレマチス機は三番機の元に合流する。


 砲門数では分があるものの、ショートガンと二連式ロングガン、速射性では前者に分がある。

 かといって距離を取ろうとしたら、その隙を突いて爆撃装備のMonorgはGeneadの横を通り過ぎようとするだろう。


 なら敢えて乗ってやるまでだ。


 「R51は手筈通り排除した。これよりR52が指揮を執る。敵を懐に誘い込む。R53は、このまま敵部隊との射撃戦を継続、爆撃を試みるMonorgが出たら私が対応する」


 了解の応答。先程とは逆に距離を取ろうと退くGenead、その隙を突くようにしてMonorg部隊が二部隊に分かれる。接近しつつショートガンでプレッシャーをかける二機と、爆撃するため擦り抜けようとする二機に。


 クレマチスはすり抜けようとする二機の進路上に向けて射線を放つ。残留射線で妨害。敵は残留射線の末端まで迂回しようとする。

 クレマチス機はK推進装置を作動、一気に僚機から離れて爆撃を試みる二機を狙う。だが距離が離れていたことでMonorgの爆撃の方が早い。


 Monorgの左手、実体弾ポッドの保護板が展開、合計二〇発の多用途弾が放たれる。放物線を描くように上昇を始める多用途弾。


 飛翔する多用途弾の軌道は、サロゲート操作者によって操られる。スタティクル線を神経とし、先端の視覚器からの視界を把握して、四肢や指と同じように意識して動かす必要がある。


 K推進装置を停止しつつ、白兵戦用ブレードを地面に突き立て急制動。膝立ちで姿勢を安定させて火器を向ける。クレマチスは爆撃機に向けて狙撃を敢行する。


 クレマチスは多用途弾そのものを迎撃せず、直接Monorg本体を狙った。

 発射さえすれば、後は数秒間操作し切れば勝ちだと油断していたMonorgに対して、クレマチス機は二連の速射で二機の頭部を正確に射貫いた。

 大陸側の操作者からの遠隔接続を即座に断たれるサロゲート、それは多用途弾も同じだ、あっという間に墜落していく。操作者からの指令が断たれた多用途弾は推進力を失う。眠った人間が四肢を動かさなくなるように。


 立ち上がりながらK推進を再開。僚機のR53が火力戦を行っているMonorg二機の側面に出ると、敵の後方に向けて射撃を行う。残留射線で退路を断たれた二機に向かい、クレマチスが射撃を行う、味方と合わせての十字砲火。襲われた敵機はクレマチス機から距離を取ろうとするが、それを読んでいた僚機の射撃が、Monorgの胴体と脚部を射抜いて沈黙させる。


 残り一機のMonorgは、二機のGeneadの火線に追い立てられるようにして敗走した。

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