第19話 異世界転移は突然に

 それからの日々は、目まぐるしいほどの忙しさで過ぎていった。王を倒したことで一段落――とはいかず、そこからが本当の試練だった。


 王宮の修復だけでなく、国全体の再編や、秩序を取り戻すための新たな法制度の整備、そして異世界から召喚された生徒たちの生活基盤の確保――目の前には山のような課題が積み上がっていた。


 生徒たちの力は戦闘だけにとどまらず、さまざまな形でこの世界に貢献していた。建築や土木に秀でた者たちは外装から内装に至るまでの作業を、魔法や能力を駆使して次々とこなしていく。まるで熟練の職人たちのようだ。


 彼らの手によって王宮の修復が進む様子を見ながら、戦闘用途以外の能力にも大きな可能性があると再認識した。


 さらに、土壌を変化させる能力を持つ生徒は農業にも大きな影響を与え、新しい作物を育てることで食料不足を解消していった。


 異世界に召喚された目的は魔王討伐であったが、1000人以上の生徒が得た能力は戦闘に限ったものだけではない。


 治癒魔法を使いこなす者、工芸に関する特殊な知識を持つ者、あるいは少しだけ先の未来を予知する能力を持つ者など、その多様性は予想を超えていた。


 戦うことが難しい生徒でも、こうしたスキルを使えば、この世界で生き抜く手段を見つけられるはずだと希望を持てた。


 そして、当初はスローライフを送るつもりだった俺も、自分の選択に迷いを感じるようになっていた。果たして、目の前の現実から逃げるだけで本当に良いのだろうか。佐藤の即位が進む中、俺にも責任感が芽生え始めていたのだ。



 ――そのような忙しい日々の合間を縫って、佐藤の王即位から一ヶ月を記念する、ささやかなパーティーが王宮で催されることになった。


 貴族や各国からの来賓を呼ぶような大掛かりなものではなく、生徒たちだけで行う身内的なものだ


 玉座の間は温かな明かりに包まれ、色とりどりの花が飾られている。豪華な料理が並び、音楽隊が穏やかな旋律を奏でていた。


「おい、蓮! ちゃんと楽しんでるか?」


 佐藤が俺に声をかけてきた。少し疲れた顔をしていたが、その目には確かな自信が宿っている。


「まあまあだな。王の仕事は順調か? 陛下」


 俺が冗談めかして返すと、佐藤は苦笑いを浮かべた。


「勘弁してくれよ……でも、やるしかないからな」


 その言葉には重みがあった。まだ不慣れな王の仕事に追われながらも、彼は着実に責務を果たしていたのだ。


 パーティーの終盤には、佐藤が挨拶に立ち、集まった人々に感謝の言葉を述べた。


「皆さん、今日はこのような素晴らしい機会を作っていただき、ありがとうございます。この一ヶ月、私にとっても皆さんにとっても多くの挑戦がありました。しかし、私はこの国の王として、皆さんと共に歩むことを誓います。この国を、より良い未来へと導くために、どうか力を貸してください」


 その言葉に場内は静まり、次の瞬間、大きな拍手が湧き上がった。佐藤の言葉には迷いがなく、王としての覚悟が伝わっていたのだ。


 その様子を見て、俺自身も覚悟が固まった。逃げるのではなく、未来を切り拓いていこうと。


「佐藤、いい挨拶だった。それで話があるんだが―――明日の朝、俺はこの国を出ようと思う」


 佐藤は少し驚いた様子を見せたが、すぐに納得したように頷いた。


「……そうだよな。お前にはそれだけの力があるもんな」


 彼は残念そうな素振りを見せたが、すぐに何か察したようだ。


「蓮、まさか――」

「ああ、俺が魔王を倒してみせる」


 佐藤が言う前に断言すると、彼は困惑した表情を浮かべた。


「お前の能力がチートなのは分かってる。だけど、一人で行くのは無謀すぎるんじゃないか?」


「そうかもな」と俺は頷いたが、誰かを連れていくことについては迷いがあった。


「やっほー! 面白そうな話してるじゃん! あたしも連れてってよ!」


 不意に明るい声が響く。

 振り向くと、そこには爛漫がニコニコと笑顔で立っていた。会長と雪乃も一緒だ。


 華やかな3人の登場で、場の空気が一気に軽くなる。


「そうですね。蓮君一人だけに任せるわけにはいきません。生徒会長として、私も同行させていただきます」


「爛漫はともかく、会長まで……私は反対だわ!」


 協力的な二人とは対照に、ただ一人、雪乃だけが難色を示していた。あの一件で少しは距離が縮まったかと思っていたが、やはり男嫌いは健在のようだ。


「雪乃さん、これは強制ではありません。気が進まないのなら留守番でも――」


「そうそう!雪乃っちはここでお留守番しててもいいんだよ!」


 割って入った爛漫が軽口を叩くと、雪乃は反射的に声を上げた。


「ちょっと! その呼び方はやめてって言ったはずよ!」


「いいじゃん! あたしと雪乃っちの仲でしょ!」


 爛漫はまるで悪戯っ子のような表情で、雪乃をからかうように言葉を続ける。


 彼女たちのやり取りに苦笑いを浮かべていると、ふと隣にいた佐藤が俺に囁きかけてきた。


「蓮、お前いつの間に生徒会三大美女と仲良くなったんだ? ファンクラブや親衛隊の奴らにバレたら殺され……いや、その心配はないな」


 佐藤は俺を心配してくれるかと思いきや、最後には皮肉交じりの笑みを浮かべていた。


 ――その後、しばらくのやり取りを経て、彼女たちは意見をまとめたようだ。


「不本意だけど……あなたが不埒なことをしないように監視役として私は同行するわ。おかしな真似をすれば、即座に私の能力で始末するから」


 雪乃が鋭い目でこちらを睨みつける。

 何とも恐ろしい……思わず背筋が凍りつく。


 "真実の眼リヴェレーション"で確認したところ、彼女の能力は"絶対零度"。触れた物を任意に凍結させることができる能力だ。


 触れるまでの難易度は高そうだが、接触さえできればかなり強力であることは間違いない。


「……申し出は嬉しいけど、魔王は俺一人で倒すよ。どれだけ長い旅になるか、どんな危険があるか分からないんだ。3人を危険な目に遭わせるわけにはいかない」


 俺は真剣に言葉を紡ぐが、雪乃はその提案を即座に否定する。


「大丈夫よ。足手まといにはならないわ。私たちには"レベルアップ"という概念があるのよ? レベルを上げれば魔王ともきっと戦えるはずだわ」


 意外にも雪乃は協力的だ。現状を変えたいのか、それともツンデレ的なアレなのか。後者ならば嬉しい限りだが。


「そうだよ! あたしの能力なんて"ぶおーぶおーのまつえい"なんだから!」


「……? ぶおーぶおーのまつえい? 何だそれ?」


 気になって"真実の眼リヴェレーション"で確認してみると――。


 ・天神爛漫

 ・レベル1

 ・戦闘力100000

 ・能力『武王ブオーの末裔』武王と謳われた伝説の武闘家ブオーの技術を継承し、その戦闘力は計り知れない。


 そのステータスを見て、俺は絶句する。

 ぶおーぶおーなんて可愛いもんじゃなかった。ゴリッゴリの武闘派だ。


 戦闘力に関しては御影玲王すら凌ぎ、俺の1000倍である。


「やっぱりついてきてもらおうかな……」


 俺が冗談交じりにそう言うと、爛漫は目を輝かせて答えた。


「でしょでしょー! 絶対それがいいよ! 先輩がいれば簡単にレベルアップもできそうだしさ!」


 彼女の言うことも一理ある。

 レベルの高い人間がそうでない者とパーティーを組み、適正レベル以上の狩場でレベルアップすることを、『パワーレベリング』という。


 もし、この世界でそれができるのであれば、彼女たちは十分な戦力になるはずだ。


「そうだな……それじゃあ、3人ともよろしく頼む」


 俺がそう告げると、彼女たちは力強く頷き、それぞれの決意を新たにした。


 爛漫はいつもの笑顔を浮かべ、雪乃は少し不服そうながらも目には確固たる意志が宿っている。そして会長は冷静でありながら、内に燃える使命感をひしひしと感じさせた。



 ◇◇◇



 ――その後、俺たちは数々の困難な冒険を経て、遂に魔王の居城へと辿り着く。


 結論から言うと、魔王は俺一人で倒した。

 城内の魔物を殲滅した後、彼女たちを魔法で眠らせ、その間に魔王の元へ向かったのだ。


 この決断には多少の迷いもあったが、彼女たちを危険に晒すわけにはいかない。


 この世界で召喚者のレベルは99で成長が止まる。しかし、俺はチート能力で"無限成長"という魔法を想像し、レベルの上限を超えて成長し続けることができた。もはやステータス画面に戦闘力の数値が収まりきれていない。


 俺は魔王と相見えるや否や聖剣を創造し、圧倒的な戦闘力で魔王をタコ殴り。ボッコボコである。


 だが、魔王は世界に魔力がある限り復活し続けるというチート能力を持っていた。


 だから、仕方なく世界から魔力をなくした。

 俺の魔法は"魔力"に依存するものではなく、"能力"によって生み出されるものだ。何の問題もない。


 たとえそうでなくとも、戦闘力が魔王を遥かに上回っているのだから、肉弾戦だろうが余裕で勝てる。要は復活さえしなければいいのだ。


 聖剣が魔王の心臓部を貫くと、魔王は灰と化して消え去った。


 そして魔力をなくした結果、この世界の住人は一時的に魔法を使えなくなってしまったが、神によって最低限の生活魔法が再び与えられることになった。


 ――その後、神から告げられた真実も驚くべきものだった。俺たちが異世界に召喚された日、実は元の世界で生徒たちは、老朽化した体育館の崩壊に巻き込まれて死ぬ運命にあったらしい。


 それを神が救い上げ、自然発生した魔王を倒すために俺たちをこの世界に送り込んだというわけだ。要するに、俺たちは都合よく利用されたということ。まあ、命を救ってもらったのだから文句は言えないが。


 エリュシア王国に転移させたのは、あの王様が神を信仰せずに自分勝手好き放題していたから。確かに教会や聖堂らしきものが、あの国には見当たらなかった。


 召喚者の住む国にするには丁度いいと思ったらしく、最初から俺たちに乗っ取らせるつもりだったみたいだ。


 神を信仰したところで特別な恩恵は与えないが、信仰しない者には罰を与えるという、何とも自己中な神だった。


 それから、表向きは王が俺たちを召喚したかのように見えたが、実際には日が昇る頃に魔王を倒す戦力を送るから、レベルアップとステータス、能力の概念やらを教えろとお告げしていたらしい。玉座の間の魔法陣も神が用意してくれたみたいだ。


 思い返せば、召喚士とか魔法使いっぽい奴なんて一人もあの場にいなかったな。


 そんな紆余曲折うよきょくせつを経て、俺は元の世界に帰還した。退屈だった毎日が、今ではまるで別物だ。


「蓮先輩! 一緒に帰ろー!」

「爛漫ちゃん、抜け駆けは許しませんよ?」

「悪いけど、蓮は私のものよ。誰にも渡さないわ」


 帰還後も、俺の周りはいつも活気に満ちている。多くの時間を共にした彼女たちは、今や俺の生活に欠かせない存在だ。ふと、異世界での冒険の日々を思い出し、心の中で感謝した。


 俺たちは今日も新しい日常を穏やかに、そして賑やかに過ごしている。



 ーーーーーーーーーー


 最後までご愛読いただいた読者の皆様、本当にありがとうございました!

 たくさんのフォローや応援、評価もありがとうございます!とても励みになりました!

 道半ばで倒れることになってしまい、誠に遺憾でございまする……!


 新作は出したいのですが、今回の反省をふまえてストックのことを考えると、早くても半年後とかになりそうです()


 時間と気力があれば、【反撃のルシファー】というタイトルで次回作は出します!


 見かけることがあれば、是非立ち読みしていってくださいませ!

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陰キャぼっちの俺が異世界転移で学校一の美少女たちとパーティーを組むことになった件 Yuki @peruttiti

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