第41話:案ずるより討つが易し①
(――はじまった)
微細な振動が空気を震わせるのを感じて、思わず口角が上がる。
今宵は新月間近、月の出はかなり遅い時刻となる。ゆえに日が落ちれば、辺りを照らすのは星明りだけ。しかしそれも、夕刻から徐々に広がり始めた雲に覆われ、地上へはほとんど届いていない。屋内ともなればなおさらだ。
(……いよいよだ。我らの悲願、ようやく果たす時が来た)
そのために無害でか弱い人の子のふりをして、今の権力者の邸に入り、側近くに仕えてきたのだ。
跡取りのために多くの妻を得る、という今時の世にあって、ここの主人はただ一人だけを大事にしているようだった。その連れ合いが数年来、体調を崩しがちであるということで、急遽邸の人手を増やすこととなった。その機に乗じたのだ。
(都の者らは憎い。が、あ奴がつがいを大切にするのだけは、褒めてやってもいい)
それに引き換え、と、暗がりの奥を鋭く見やる。本来ならそのような目つきをしたが最後、付き添う腕自慢によって取り押さえられることだろう。しかし、それはもはや不可能だ。今だけではなくこれからずっと、未来永劫に。
その為に必要なものを取り込むべく、宴で見かけた者に文を渡した。結局その場では役に立たなかったが……あれもそこそこに気に障る、我らに近い存在のくせに、憎き仇に肩入れしているとは。
(苦しいか? 今暫し、そうやって眠っているが良い。そして――お前の大切なものを喰らって、取り込んで、跡形もなく灰燼に帰してやろう)
未だ不安定な息遣いが響く、御帳台の内。うっそりと目を細める人物は完全に闇に沈んで、見透かすことは出来なかった。
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