第25話:捕らぬ妃の皮算用①




 (……どうしよう)

 一体幾度繰り返したやらわからない、出口のない問いが頭に浮かんで、思わず両手を握りしめる。

 ここに閉じ込められてから、おそらく数日が経過した。といっても蔀戸しとみどという、上下が別になったはめ込み式の窓はずっと閉じられていて、陽の光の射し方でぼんやりと時刻が分かる程度だ。もし自分の体力が減っていき、さらに雨天が続いたりすれば、それすら分からなくなるだろう。

 (一度くらいは島の外を見てみたい、って、父様に無理言ったのがいけなかったのかなぁ)

 自分は王族の出で、しかも稀有なほど霊力が高い。将来は政略結婚の駒ではなく、今は叔母が就いている神祇じんぎの長を引き継ぐ予定だ。そうなったら、余程の事がない限り国を出られない。でも、他所のことを全く知らず、神事だけやっていれば良いのだとは思えなかった。

 (だって、この碧珠海には多くの島々が浮かんでいる。それぞれに気候が違い、文化が違い、言葉だって違う)

 ところどころ入り混じりながら均衡を保ち、独立を保っているのは、異なっている互いを解り合おうとする努力を続けてきたからだ。そして解ろうとすることの出発点は、相手を知ろうとすることだと、自分は思う。

 だからこそ、友好国の中でもひときわ長い歴史と交流を持つ日凪への使節団に、どうしても参加したかった。散々わがままを言って、ようよう加えてもらうことになった時は、嬉しくてなかなか寝付けなかった。侍女の他にひとりだけ連れて行けることになった護衛であり『友人』に、日凪の文化や習俗を綴った本を見せては、早く行ってみたいねぇと笑いあっていた。

 それなのに。このままでは友好どころか、国交断裂に陥りかねない。

 (どこ行ったんさ、月桃サネン……!!)

 早く慣れてくれと、半ば無理やり着付けられた装束が重い。その大きな袖の中で、ひっそり持ち込んだ銀の簪を握りしめて、行方知れずの友に呼びかけた。


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