第17話:去る神は日日に疎し②
炊きたての栗ご飯に塩少々。しめじの
うっかり途中から離脱してしまった明璃に代わって、真藍が整えてくれた昼餉の膳は実に美味しそうだった。いつも何かとお世話になっているし、そのたびにちゃんとお礼を言っているが、今日はさらに輪をかけてありがたい。だって今年最初の栗なのだ、出来るだけ美味しくしたいじゃないか。
「ありがとう真藍さん……今日は、ううん毎日そうだけど、とにかく足向けて寝られません……!」
「うふふ、困ったときはお互い様ですわ。ささ、明璃さんも冷めないうちにどうぞ」
「わあんいただきます~~~!!」
《ぷきゅ、ぷうっ♪》
「ううう、おもちもありがとう……すっごくおいしい……」
「おや、明璃には言っていることが分かるのか?
「うんまあ、昔から小さい生き物が大好きだからなぁ。にしてもおもちか、またぴったり来る名前を付けたもんだ」
「幸雅様、ありがとうございます。だって師匠、この子触るとぷにぷにして気持ちいいんですもん。ねー」
《ぷ~♪》
膝の上に陣取っている猪を撫でて、ご満悦な明璃である。おもちの方もうれしそうだ。非常に癒される光景で、保護者たちもにこにこして見守っている。
しかしそんな中、唯一微妙に困っている人がいた。言うまでもなく、本日初めてこの会合に参加した玄妙である。
(卯京殿、一の大臣に素の口調で話しておられるんだが……あと大臣も毒見せずにものを口にされているし……)
彼らには日頃何かと世話になっている身だ。その流れで、二人が旧知の仲であることも知ってはいる。が、こんなに打ち解けた気安い調子とは思わなかった。なにせ、両方とも揃った状態でご一緒するのは初めてなので。
「……玄妙さん、どうですか? ちゃんとおいしい? むいてる時はどの実もとってもきれいだったし、十分甘いとは思うんですけど」
「っ、ん!? ああいや、ぼーっとしていて申し訳ない! とても美味い、毎日でも食べたいくらいだ!!」
「え、そ、そうですか? ……ありがとうございます」
あれこれ考えて無言でいたら、口に合わないのかと心配させたらしい。そっと顔を覗き込んでくる明璃に焦りまくった挙句、勢いで言わなくて良いことまで言ってしまった。まずい。
「ほうほう、仮にも後見人の前で口説くとはなぁ。自称朴念仁のくせになかなかやるな、玄妙殿」
「我々は遠慮した方が良いかな? いや、いきなり二人きりだと逆に困ってしまうか」
「もももも申し訳ない!! つい口が滑って!!!」
「師匠うううう!! 何言ってんですかお客様の前でっ、幸雅様も便乗しないで下さいっっ」
案の定、言われた当の明璃がぶわっ、とほおを紅くしたのを皮切りに、保護者二人からここぞとばかりにからかわれた。あながち間違ってもいないだけに居たたまれない。
――山の主である大鹿に攫われて、異変を来たした彼の奥方を救い出してから、はや半刻ばかり。玄妙の馬に同乗して戻ってきた古瀬邸にて、一同はようやく昼餉にありついていた。先に着いていた幸雅と、出迎えた側の卯京は先に食べていてもよかったはずだが、律儀にも待っていてくれた。その心遣いが身に沁みる。
ちなみに主の霊鹿は、奥方を安全な場所に移すのと、一応山全体を見回ってみなければということで、その場で別れてきた。その代わり『礼と言うには少々心許ないが……』と言いつつ、あけびやきのこといった秋の実りを、どうやって運ぶか困るほどたくさん持たせてくれた。様子見を兼ねて後日、ちゃんとお礼を言いに行こう。
……と、水干の袖で顔をぱたぱたやりつつ決意を新たにする明璃である。うう、あつい。
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