第4話:文触れ合うも他生の縁④



 「げほっごほっ! ……な、何で……!?」

 「すみません、見たくないけど見えちゃいました。分かったのは書き方とか、書いてある紙の雰囲気とかでですねぇ」

 「そ、そんなもので分かるのか!?」

 「え? えーっと、まあ一応」

 早々に復活した青年から勢いよく詰め寄られて、明璃はちょっとびっくりした。本人としてはごく常識的なことを言ったつもりだったのだが。

 使われている料紙は、厚手で白一色というよくあるものではない。薄様うすようで淡く色がつけてあり、光に照らされて時おりちらっと瞬くから、小さな金や銀の箔片を漉き込んであるのだろう。こうやって美しく誂えた一品には、それにふさわしい内容を綴るものだ。

 ついでに、さっきは死角になって見えなかったが、机の横の床に枝が置いてあった。すらりとした姿と連なる丸い葉は、今が盛りのはぎのものだ。上品な赤紫の花を咲かせた枝が風に揺れる様子は、爽やかで大層美しい。秋の七草にも数えらえる、この季節を代表する植物だ。

 「多分、この萩に結んだ状態でいただいたんですよね。わざわざそういう工夫をして渡して来るのって、仲の良いお友達じゃなければ恋人か、もしくはそうなりたい人だろうなーって」

 「――よしっ!! 君のような人を待っていた、ちょっと相談に乗ってくれ!! 頼むッ」

 「はい!?」

 いや、いきなり喜ばれても話が見えないんだが。しかし明璃が困っている間に、青年はさっさと席を立って円座を勧めてくる。こっちを見る目がやたらと必死でどうにも断りにくい。仕方なく丸い敷物にちょこん、と座ると、文に書かれた歌がようやく読み取れた。

 意味はおおよそ、『今宵は月が見事ですが、萩もまた美しいですよ。お気づきでしょうか』といったところだ。読みやすいきれいな字だし、技法も特に難しいものではない――が、これは恋文だ。裏に潜ませた気持ちを読み取らねばならない。とすると、

 「んーと、こういう時って大体、お花は女性側を例えてることが多いんですけど……てことは、『私、あなたのことが好きなんだけど、気付いてますか?』って意味に」

 「だよな、うん。それは何となくわかるんだが……どのくらい本気だと思う? この人」

 「そうですねぇ……このお邸、前にも来たことがありますか?」

 「いや、今回が初めてだ。上役に引っ張って来られた」

 「そっか、じゃあそんなでもないかな。こういう席で歌を詠んで人に渡すのって、得意な人たちにとっては遊びみたいなものですし。礼儀を守ってそれなりのお返事をすれば、角も立たないと思いますよ」

 「遊び……なら、そんなに心配しなくても良いか。よかった」

 心底ほっとした風情で胸をなで下ろす相手だ。口ぶりからして内容というより、万が一本気だった場合に相手が傷つくことの方を心配していたらしい。ここまで律儀な御仁、一夫多妻が当たり前の今時ではめずらしいのではなかろうか。

 (……優しいな、このお兄さん)




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