君がいたときのことを忘れないように
磯田有季
君がいたときのことを忘れないように
星が、見事に空の表面にくっついている。私は静かに、食べ物を食べていた。静かだった。とても静かな夜色の水みたいな世界の底は、音がなにも聴こえない。そんなときにも私は食べ物を食べていた。そこは海ではなかった。水みたいだったが、水ではなかった。ただの空気だった。空気が、空気ではないようにまとわりついていたから、水のように思えただけだった。空気は重いようで、すぐ払いのけられた。恐ろしいけど、私の時間はもうすぐ光らなくなるらしい。君の街はどうなのだろうか。水のような空気が、足元を埋めているのだろうか。時間という名前を授受されたあの、とある流れは光り続けているんだろうか。君の街は何色だろう。昼の色をしているか。それなら、まだ心配はないだろう。彗星は、まだ落ちてこずに、変光星から垂れている蜘蛛の糸にぶら下がってるだろうから。顔のない桜がたくさんの綻びを見せ始めたら、きっと私の時間は光らなくなるだろう。これは全て私の落ち度で、桜色の何かを私は持っていなかったみたいだ。大体いつも、右手が震えている。私の合鍵は、違う扉の合鍵だった。それはもはや合鍵でもなくて、ただの金属で、そこの溝に捨てられても言葉を発しない。音も立てず、私に逆らわずにいつのまにか消えている。意味を持たないようだった、あの心の裾はまだ地面につかず白いままだ。あと、3月にはみなとみらいは行けなくなるから、あのもう1回くらい、君と見に行きたい。あの夜景。あの空気。泣くほど好きな映画などないけど、君という名前がついた君は美しい。君が映画であって、それ以外はなにも映画ではないみたいだ。
君がいたときのことを忘れないように 磯田有季 @tyoutyouhujin
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