第2話 準惑星(1):危うくなった冥王星の地位

 第4話

https://kakuyomu.jp/works/16818093084192538215/episodes/16818093084193754902

で、古藤ことう美里みりとみそらが話していた、というか、美里が一方的にみそらに話していた準惑星とは、何か?

 ここで、盈子えいこも知らない準惑星の謎をひもといてみましょう。


 準惑星とは、「惑星としては小さいが、小惑星としては大きすぎる」という太陽系の天体について、二〇〇六年に新たに定められた種類です。そのあり方からいえば、「超大型小惑星」といってもいい種類です。

 二〇〇六年、まず国際的に英語名称 dwarfドワーフ planetプラネット が決められ、その訳語として「準惑星」が決まったのは二〇〇七年でした。

 「dwarf」はファンタジーなどに出て来る「ドワーフ」で、天文学では「矮星わいせい」と訳するのが普通です。だから dwarf planet ならば「わい惑星わくせい」という訳語のほうが自然なのですが、「矮」(背が低い)という字が現在では日常的にはあまり使われないものであることなどに配慮して「準惑星」を選んだもののようです。


 もともと、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王てんのうせい、海王星、冥王めいおうせいを「惑星」として扱い、それより小さい太陽系天体(で彗星や他の惑星などの衛星ではないもの)は小惑星として分類していました。

 小惑星としていちばん大きいのはケレス(英語的に読めばセレス)なのですが、ケレスは直径で見て冥王星の半分以下の大きさです。だから、冥王星とケレスのあいだで、惑星と小惑星のあいだの線を引けばいい、ということになっていました。

 また、もともと、小惑星は火星と木星のあいだの「小惑星帯」を回っているもの、とされていました。小惑星帯以外の場所にも小惑星は見つかっていましたが、それはどれも小さい小惑星ばかりで、「変わり種の小惑星」として考えて問題ありませんでした。


 ところで、惑星のうち、冥王星については、軌道が惑星としては楕円でありすぎること、海王星と一部軌道が重なっていて、海王星より内側に入る時期があること(最近では一九七九年から一九九九年まで冥王星のほうが海王星より太陽に近かった)、天王星・海王星とくらべて小さすぎることが問題になっていました。

 みそらが説明しているとおり、発見された当時、冥王星はもっと大きいと考えられていました。発見当初から冥王星の大きさの推定値は小さくなる一方でしたが、一九七〇年代でも地球の半分くらいはあると推定されていました。このころになっても、地上の望遠鏡では冥王星は遠すぎてはっきり大きさを確かめられなかったのです。

 一九九〇年代になると、その直径が二〇〇〇キロちょっとということが確定し、地球の月よりも小さいことがわかりました。


 それに、惑星には、似たような種類の惑星どうしでまとまっている、という特徴があります。

 地球に近いところには、主に岩石でできた惑星が、水星、金星、地球、火星と並んでいる。

 火星の向こうに小惑星帯があって、その向こうには、大きなガス惑星(またはガスが凍りついた氷惑星)の木星、土星、天王星、海王星が並んでいる。そのなかでも、木星と土星が巨大で、天王星、海王星は、地球より大きいものの木星や土星とくらべると小ぶりです。

 ところが、冥王星は、天王星・海王星の近くにいるにもかかわらず、天王星・海王星には似ていない。

 そこで、「冥王星って、もしかして、違う種類の天体じゃないの? もっとはっきり言うと小惑星の一種じゃないの?」という疑念が出て来ることになります。


 また、海王星よりも遠くにも小惑星帯があるはずだ、という説も二〇世紀の中ごろからありました。なお、冥王星の軌道はやや強い楕円形なので、太陽からの距離を表現するときには、円形の軌道に近い海王星の軌道を基準にします。

 「海王星より遠い小惑星帯がある」とする根拠の一つに、現在でも、地球などの軌道の面に沿って、彗星がたくさんやって来る、ということがあります。

 彗星というのは、太陽に近づくと熱せられてガスやダスト(細かい土ぼこりのようなもの)の放出して尾を引きますから、太陽への接近を繰り返せば徐々に内部の物質を失った末に枯れ果てます。それなのに、太陽系ができて四十六億年も経ったいまでも、これまで知られていなかった彗星が次々に太陽に近づいてくる。

 ということは、彗星が、ガスやダストを豊富に持ったまま「凍結保存」されている領域が、海王星より遠くにあって、太陽系を取り巻いているのでは?

 そこにある小さい天体が、何かの拍子で太陽に向かってたまに「落ちて来る」と彗星になるのでは、ということです。

 したがって、海王星よりも遠くにも、凍りついた彗星や小惑星で構成される小惑星帯があるはずだ。

 そういう推測はあったのですが、一九八〇年代までの観測技術ではその観測は不可能でした。


 ところが、一九九二年、冥王星よりも遠い軌道を回る小惑星が発見されました。

 この小惑星は、仮符号で「1992QB1」と名づけられ、ずっと仮符号のままでした。私などは、魔法少女アニメに登場するキャラクターにちなんでそのまま「QB」でいいんじゃないか、「宇宙的使命を担って人類に見出された存在」として、と思っていたのですが、ようやく二〇一八年になって「アルビオン」という正式名称が確定したようです。

 その後、少しずつ、海王星よりも遠い小惑星が発見されるようになりました。

 そういうなかで、冥王星というのは、惑星ではなくて、「海王星よりも遠いところにある小惑星帯の天体のうち、特別に大きいもの」ではないか、そう分類したほうがいいのではないか、という意見が出て来ました。よく覚えていないのですが、一九九〇年代後半には、天文学界ですでにそういう意見が出ていたようです(日本ではたとえば一九九九年一月の国立天文台「天文ニュース」が「惑星の座を失うか、冥王星」としてこの問題を報じています)。

 ただ、この時点では、「海王星よりも遠いところにある天体」のなかでは、冥王星は飛び抜けて大きいので、やっぱり小惑星の仲間にもできないのでは、ということになり、冥王星は惑星のままとされていました。


 二〇〇二年になって、直径一〇〇〇キロ級の「海王星よりも遠いところにある天体」が発見され、クワオアーと名づけられました。

 翌年二〇〇三年には、やはり同じくらいの大きさの「海王星よりも遠いところにある天体」が発見され、こちらはセドナと名づけられました。セドナは、太陽にもっとも近づいたときでも海王星の倍以上遠く、公転周期は一万年を超えるという天体でした。理論的には太陽系の太陽から遠いところにも天体が回っているのだろう、ということは言われていましたが、実際にそういう天体がある、ということを示す発見でした。

 ここで、「冥王星は、やっぱり、クワオアーやセドナと同じ種類の天体として、「惑星」とは別に位置づけたほうがいいのでは?」という意見が強くなりました。

 しかし、この時点では、冥王星はまだクワオアーやセドナの倍の直径があったので、「いや、冥王星は大きさが違う」と言うことができました。

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『黄金林檎の落つる頃』附録 清瀬 六朗 @r_kiyose

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