3.緋き牙と碧き路/naimed(紹介No. 15)

 今回は、naimedさん作の異世界ファンタジー『緋き牙と碧き路』をご紹介します。


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紹介No. 15


URL:https://kakuyomu.jp/works/16816927863052179513


話数:45話(2024/10/6現在)


文字数:143,382文字(2024/10/6現在)


投稿状態:完結済


セルフレイティング:残酷描写有り、暴力描写有り

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 最初に読んだnaimedさんの作品は、異世界ファンタジー『惑いし令嬢は全てを流す』だったんですが、ざまぁされた登場人物がただ破滅して「はい、終わり!」って感じでなかったのがよかったんですよね。そのキャラは本来ざまぁ対象だったのに、結構共感できる不思議な魅力のあるキャラでした。


 それ以来交流させていただいていますが、私の閑古鳥が鳴いている作品も読んでコメントをしょっちゅうくださってとても励みになっています。


『惑いし令嬢は全てを流す』

https://kakuyomu.jp/works/16817330652212639806


私のレビュー: https://kakuyomu.jp/works/16817330652212639806/reviews/16817330657744939721


『惑いし令嬢は全てを流す』の後に読んだのが『緋き牙と碧き路』ですが、執筆順は逆で後者のほうが先に書かれています。


 実は、1年程前に『緋き牙と碧き路』の最終話まで読んだつもりだったんですけど、1ヶ月ぐらい前にたくミン☆さんのレビュー通知が来て、もう1度この作品を読んでみようとあるエピソードを開いたら、応援を押していませんでした。どうやら気になったタイトルのエピソードと最終話をつまみ食い(コラコラ!)してただけみたいで、今度は最初から通して読み、本エッセイで紹介したくなりました。


 それでは、ネタバレしてもいけないのでnaimedさんの紹介文と大して違うことは書けませんが、恒例の粗筋です。


【粗筋】

 Bランクパーティー「リュウコ」の切り込み隊長マィソーマはどうしても身分を取り戻したかった。そのためにもパーティをAランクに昇格させたかったが、同じパーティの幼馴染のデルトは弱く、足手まといとマィソーマも仲間も感じており、あることをきっかけにとうとう彼を追放することを決めた。その後、順調にパーティはAランクに昇格したが、彼らは冒険者の立場を捨てて王国騎士団に入団し、順調に出世してマィソーマも目的を叶えていく。一方、追放後のデルトは国を出てソロ活動をしていた中で、元囚人のGランク冒険者と知り合い、彼から戦闘術を学んで強くなっていく。お互いを憎からず想っていたのに別々の道を選んだマィソーマとデルトが再会したのは、皮肉にも敵としてだった。そして2人の辿った運命とは?


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 私はスピンオフやその後の番外編などで物語が縦横無尽に繋がっていくのが好きとかねてより公言していますが、『緋き牙と碧き路』にとってそういう位置づけの作品が『決死のタイムリープ』と『2人のライオネット』になります。この3作が「Divine World」というシリーズ(カクヨムでは「コレクション」)で世界観を共有しています。


コレクション「Divine World」

https://kakuyomu.jp/users/naimed/collections/16817139558400179808


「Divine World」すなわち「分割された世界」には、naimedさんが独自に想定した戦闘術「七鬼学セプテム」が普及しています。この七鬼学セプテムとは、人体の生命エネルギーである「鬼力きりょく」の7種の属性(光・電・火・風・水・土・念)と「波長の合う自然界に漂うエネルギーや物質」を使い、攻撃や防御をする戦闘術です。『緋き牙と碧き路』の主人公マィソーマとデルトにも鬼力きりょくがあり、七鬼学セプテムを駆使して活躍していきます。


『緋き牙と碧き路』は、『決死のタイムリープ』と直接には繋がっていませんが、マィソーマが身分を失った悲劇となる前日譚が描かれている『2人のライオネット』を介して『決死のタイムリープ』に繋がっていきます。『決死のタイムリープ』の主人公カップルのルーブルとウィルマが、『2人のライオネット』で身分を失った子供時代のマィソーマとデルトに出会い、庇護して将来のための手助けもしてくれたから、『緋き牙と碧き路』のマィソーマとデルトが存在できたのです。


 マィソーマとデルトの背景をよりよく理解するためにも、『緋き牙と碧き路』と合わせて『2人のライオネット』(とできれば『決死のタイムリープ』も)を読むのをお勧めします。『緋き牙と碧き路』にルーブルとウィルマは直接には登場しませんが、碧の章第6話に2人の話題がちらりと出てきて2人のファンは嬉しくなること請け合いです。


『決死のタイムリープ』

https://kakuyomu.jp/works/16816700428479422842


『2人のライオネット』

https://kakuyomu.jp/works/16817139559118530150


『2人のライオネット』への私のレビュー:

https://kakuyomu.jp/works/16817139559118530150/reviews/16818093087472487015


『緋き牙と碧き路』は冒険ものに分類される異世界ファンタジーと言っていいと思います。冒頭は、その類のファンタジーでよく見かける冒険者パーティの「弱虫」追放のテンプレですが、その後はテンプレに収まらない人間ドラマが展開していきます。さしずめ異世界人間ドラマというか、異世界ドロドロ愛憎劇とでも言いましょうか。


 主人公マィソーマは賢くて(?)強いだけではなく、愚かな面もあったり、醜い感情を持ったりすることもあります。もう1人の主人公デルトは賢くても最初は弱かったけど、強くなりますが、お嬢様至上主義で犠牲にするものが出てきます。そういう人間の醜い点、弱い点もこの作品は露わに描いています。その行きつく先がこの物語の結末です。


 2024年10月27日のnaimedさんの近況ノートによれば、この冒頭と因果応報は決まっていたそうですが、その後の中盤の整合性を持たせるのに苦労したとのこと、私にも同じような覚えが多々あります。結末もその時点では決まっていなかったそうですが、好きな音楽を聴きながら執筆し始めたら、登場人物達が意思を持って動き出し、作者の手の届かない所まで行ってしまったそうです。そのような経験も私にもあり、共感を覚えました。


naimedさんの近況ノート「私信・またもやレビューでPV獲得!」(2024/10/27)

https://kakuyomu.jp/users/naimed/news/16818093087513061206


 ここまで人間ドラマの特徴を強調してきましたが、恋愛小説好きな私としてはマィソーマとデルトの淡い恋の行方にも注目していました。でもお互い心の奥底で想いあっているんだろうなと思わせる描写(それがまた切ない!)だけですし、魔物とのバトルシーンやスキルなどのファンタジー要素もしっかり描写されているので、人間ドラマや恋愛小説よりも冒険ファンタジーが好きな方にも楽しめるはずです。


 本作はカクヨムと小説家になろうで投稿されているのですが、小説家になろうでは数話ずつ主人公別に時系列、カクヨムではマィソーマの緋の章とデルトの碧の章に分けて主人公別かつ時系列にエピソードが並べられています。なろう版でも試しに少し読んでみましたが、どっちとも選び難く感じました。複数サイトで公開する作品の章立てを違う風にする試みがとても意欲的に感じられました。


 naimedさんの小説作品は、小説の構想集である『naimed作品におけるプロローグ&エピローグ集』を除くと、この『緋き牙と碧き路』が最新です。ですが、『naimed作品におけるプロローグ&エピローグ集』のアイディアを使って新作を書き始めて10話ほど出来ているということなので、次回作を楽しみにしています。


『naimed作品におけるプロローグ&エピローグ集』

https://kakuyomu.jp/works/16817330664312269442


『緋き牙と碧き路』への私のレビューはこちら:

https://kakuyomu.jp/works/16816927863052179513/reviews/16818093085806753690



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↓まだ読んでいない方はネタバレがあるので飛ばして下さい。一部伏字があります。


 マィソーマがパーティからデルトを追放したのは、本心じゃなかった、(一見)弱い彼を守るためと最初は思いたかったです。でも読んでいくうちに彼女は彼を追放するしかないと本当に思っていて、迷いながらもそう決断した心境が分かってきました。


 マィソーマとデルトの互いへの気持ちの温度差が切なかったです。マィソーマはデルトを大事でなかったわけではなかったんでしょうが、身分と領地を取り戻すことが何よりも大事だったのに対し、デルトは「どこまでもお嬢様についていくお嬢様至上主義」で本当に健気で、もう泣きたくなるくらいでした。特に碧の章ではデルトがマィソーマを諦めきれない心情が所々出てきて切なかったです。


 緋の章だけを読んだ段階だと、マィソーマには強く賢いイメージがあり、デルトのやったことはいくら何でも理不尽でやり過ぎじゃないかと思いました。でも碧の章を読むと、その印象がガラリと変わりました。碧の章でのマィソーマの印象は愚か者としか言い様がありません。仲間に裏切られていても全く気付かない間抜け(失礼)でクロン・エアドにいいように使われ、あんなに苦労して取り戻した領地の経営に全く見向きもしませんでした。碧の章ではデルトの行いにも納得しました。お嬢様至上主義、ここに極めたり。デルトにとってはお嬢様に害成す者は抹〇あるのみ! 徹底していて清々しいです。


 緋の章第14話は、マィソーマが本当にどうなったのか、読者の想像に任せる余韻を持って終わっていたのがよかったです。デルトを信じてよかった!


 タグの「共感できない主人公」は恐らくマィソーマのことかと思いますが、私は彼女を共感できないとは思いません。人間はいつも賢く立ち回れるわけではないので、マィソーマの愚かな面もリアルに感じられます。彼女は、ほのかに想っていたはずのデルトを切り捨ててでも叶えたかった目的があったんですよね。それは悲しいことでしたが……それから、このタグを皆様に好かれる「ざまぁ」に変えるほうがPVが伸びるかもしれないのではとお節介ながらも思いました。


【追記2024/11/3】

 naimedさんのコメントによれば「共感できない主人公」とは、やはり復讐に燃えるマィソーマのことでした。naimedさんは、リアルだという私の評価を取り入れてタグをは「ざまぁ?」に変更してくださいました。なんだか押しつけがましい意見を言ってしまったようで申し訳ありません。


 それから、なぜマィソーマに共感できる部分もあったかという理由を1つ書き忘れていました。終章の彼女自罰的な痛々しい行動を見るにつけ、哀れな気持ちが沸き起こってくるのです。きっと自らの愚かな行動のせいで幼馴染を失ったことをずっと悔やんだろうなと思えて仕方ありませんでした。お節介な提案をして申し訳なかったですが、やはりマィソーマのためにも「共感できない主人公」タグを変えていただけたことはよかったです。

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