作品紹介:恋愛(BL)
1.Cフラットの恋/畔戸 ウサ(紹介No. 9)
今回は、BL青春小説『Cフラットの恋』(畔戸 ウサさん)を紹介します。このコラムの最後、------の後は少しネタバレになりますので、作品を読んでいない方は飛ばしていただけると幸いです。
BL小説の紹介だと思ってブラウザバックしようと思った方、ちょっと待ってください!!
この作品は、カクヨム投稿にあたって人物設定を多少変更してはありますが、第11回角川ルビー小説大賞で最終選考まで到達した力作ほぼそのものです。作者の畔戸 ウサさん自ら、なぜそこまでいったのに受賞に至らなかったのか、どうして本作を書こうと思ったのか、エッセイで解説してくださっているので、BL小説が苦手だとしても、コンテストに応募したい方には特に参考になるでしょう。それに本作には性描写がキス以外なく、基本は青春小説なので、BL小説が苦手でも第20話(*印付き)だけ飛ばせば楽しんで読めると思います。
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紹介No. 9
URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330662280444868
話数:29(2024/10/8現在)
文字数:128,200文字(2023/10/8現在)
投稿状態:完結済
セルフレイティング:性描写有り
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恒例の粗筋です。畔戸 ウサさんがほとんど粗筋を書かれていないので、どこまで書いていいのかちょっと迷いますが……
【粗筋】
20代半ばの調律師高槻創平が顧客として出会った16歳の天才ピアニスト野宮
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作者の畔戸 ウサさんは、この小説で「青春バカ」を描きたかったと後述する解説エッセイで書いています。実にその通りで、性描写有りのセルフレイティングが付いていてもキスシーン1話だけなので、ハチャメチャだけどピアノに関しては天才な少年が頼りがいのある兄貴分に憧れてやがて恋する青春小説と受け止めてもらってもいいと思います。
本作が第11回角川ルビー小説大賞の最終選考で惜しくも受賞を逃した経緯は、『第11回ルビー文庫大賞で最終選考に残った件』と『Cフラ解説編』で応募に至る経緯と共に作者自らが説明しています。その理由を端的に言えば、当時のBL小説に当たり前だった挿入ありの性描写(今も強い需要あり)を盛り込んでいなかったからです。畔戸 ウサさんはそれを承知の上で本作を執筆して応募したのにもかかわらず、最終選考まで残れました。それについては、本エッセイの「物書き徒然日記」コーナーの第5話で詳しく書きましたので、そちらもご覧下さい。
『第11回ルビー文庫大賞で最終選考に残った件』(畔戸 ウサさん作)
https://kakuyomu.jp/works/16817330662880738010
『Cフラ解説編』(畔戸 ウサさん作)
https://kakuyomu.jp/works/16817330662994934929
本エッセイ「物書き徒然日記」の第5話「レーベルの求めるものが作品に欠けていても受賞できるか:角川ルビー小説大賞の例」
https://kakuyomu.jp/works/16818093085464641449/episodes/16818093086563641203
本作には、前日譚・後日譚を描く番外編『Cフラットな番外編』(連載中)もあります。こちらは本編と違って恋愛ジャンルではなく、現代ドラマとなっており、性描写はキスも含めて一切ありません。1話完結型なので、これだけでも楽しめます。
『Cフラットな番外編』(畔戸 ウサさん作)
https://kakuyomu.jp/works/16817330667712634577
私が『Cフラットの恋』の存在を知ったのは、上記の「物書き徒然日記」の記事でも言及したまちかりさんの別のエッセイ『書籍化症候群=小説、書籍化したくありませんか?』を読んだ時でした。まちかりさんは、様々な公募に応募しており、受賞するための作品作りについて創作論を書いています。畔戸 ウサさんが角川ルビー小説大賞の件をエッセイにしたためたのも、最終選考に残って受賞した、受賞しなかったの違いはどこにあったのかとまちかりさんに問われたからでした。
『書籍化症候群=小説、書籍化したくありませんか?』(まちかりさん作)
https://kakuyomu.jp/works/16818093085847768625
『Cフラ解説編』第2話を読んでいただくと分かるのですが、なんとこれが畔戸 ウサさんの処女作です。本作を書くまでは小説投稿などしたことがなかったそうです。それなのにこのクオリティ! 世の中、才能あふれる人って本当にいるんだと感嘆しました。ぜひどんどん作品を書いて私達に読ませてください!とお願いしたくなります。
まず『Cフラットの恋』の登場人物が皆、が印象的かつ魅力的でした。もちろん主人公の高槻創平と野宮陽夏もですが、陽夏の母や創平の上司を始めとした脇役も強烈だったり、人情深かったり、様々な味わい深いキャラが登場しました。読者の興味を引く展開も見事で初めの創平と陽夏のあっと驚かされる出会いから物語にどんどん引き込まれていきました。
陽夏のピアノ演奏の描写場面では、音楽が聞こえてくるかのようで臨場感がありました。ピアノの調律師という創平の職業も珍しくて目を引きました。調律や音楽について結構詳しく書かれているので、てっきり畔戸 ウサさんは調律師なのかと思ったほどです。でもそれはなんと私の早とちりで、畔戸 ウサさんはピアノや調律が好きで本で独学されたと知ってびっくりしました。マニアックな描写を読者はよく理解できないので冗長にとらえがちと聞いたことはありますが、極々一部(ネタバレコーナーで後述)以外はそんな風に全く感じませんでした。
私のレビューはこちら: https://kakuyomu.jp/works/16817330662280444868/reviews/16818093086363170582
【追記2024/11/19】
ちょっと前のことになるのですが、畔戸 ウサさんの近況ノートでこの記事のことを紹介していただきました。ありがとうございます。
畔戸 ウサさんの近況ノート「【お礼】田鶴様に紹介していただきました。」(2024/11/1)
https://kakuyomu.jp/users/usakuroto/news/16818093087708281771
次の記事で作品を紹介しているbabibuさんも、この記事がきっかけで『Cフラットの恋』を読み、熱のこもったレビューも投稿して下さり、交流と読書の輪が広がっているのを実感できてとても嬉しかったです。
babibuさんのレビュー:
https://kakuyomu.jp/works/16817330662280444868/reviews/16818093087593971134
私はこのエッセイを元々作者応援のために始めたので、どうしてもコンテスト最終選考まで残ったという作者目線になってしまい、私のレビューもそうなりました。でもbabibuさんは、「年上らしく振舞おうと頑張る受け」の「奔放な年下に振り回されるすがた」が「最高に尊かった」とBL愛にあふれたレビューを書いてくださってます。実にその通りで私もハチャメチャ陽夏少年に振り回される創平の自分を抑える姿がとても尊くて胸がキュンとしました。
幸い、『Cフラットな番外編』で彼らのその後も読めます。これからも彼らの物語が続くことを期待しています。
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↓まだ読んでいない方はネタバレがあるので、飛ばして下さい↓
野宮陽夏の普段の無邪気でハチャメチャな様子とピアノを弾いている時のギャップや、高槻創平が過去のトラウマを抱えている暗い面とお人好しの面のギャップが人物描写にアクセントをつけていて魅力的でした。
創平の過去のトラウマがフラッシュバックするきっかけがすごくうまく描写されていいると思いました。彼がセクシャルマイノリティゆえに迷い、過去のトラウマに苦しむ心の隙間に、陽夏が真正面からぶつかってズバズバ入っていく所は、時にお節介過ぎてデリカシーないなと思うこともありました。でも陽夏の若さと純粋さは眩しく、創平にトラウマを乗り越えさせる力があったのも納得でした。特に第20話で陽夏が創平に言った正論がよかったです。そういう面では、畔戸 ウサさんの意図しているところではないかもしれませんが、LGBTがぶつかる悩みをハチャメチャ天才少年がいつの間にか癒しちゃう物語とも本作を見ることができました。
陽夏の無意識なスキンシップで創平が絆されていくのにキュンとしました。とは言え、一番気になったのは陽夏が未成年だったところなのですが、創平がそれを配慮して自制していたのにも好感を持てました。だからこそあの結末だったと思いますが、読者に想像を任せるような感じでよかったです。
最初、陽夏の舞台拒絶症状がレナの死と繋がっていると思ったんですが、その因果関係が分かりませんでした。読み進めてそれは誤解で陽夏の母と祖母の喧嘩が原因だと分かったんですが、陽夏の母と祖母の喧嘩と彼が舞台に上がれないトラウマがなぜ繋がるのがやはり理解できませんでした。
Cフラット=B、つまり2人が最後までしないネタバレを仕込んだ作品タイトルはすごくセンスがいいと思いました。ただ、音楽音痴の私にはCフラット=Bの意味が解説を読んでも分からなかったのが残念で自分が情けなかったです。あと、完全に横ネタですが、今の若者がエッチのA、B、Cの意味を知らないことにジェネレーションギャップを感じて衝撃でした。
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