清楚な王女の夜事情
中尾和人
清楚系とは
この王国の王女、アリス。
容姿も美しく、国民の意見を良く聞いてくれると評判な彼女は、この国において絶大な支持を持つ。
そして、今日は隣国の王都での会談の日。
自国のみならず他国も求める至極の品、魔法石の輸入についての話し合いだ。
魔法の技術が上がる近年では、魔法石の輸入も必須。
ましてや、この王女を護衛するためにも魔法の精度は落としてはならない。
この会談は、国民のためのみならず、王女自身のためを思っての会談でもあるのだ。
「残念ですが、我が国では魔法石の輸出において、一国だけ特別な扱いをするつもりなどありません」
隣国の王も、そう簡単には受け入れてくれない。
しかし、話し合いが難航することはなかった。
「では、私の国から、魔法石を発掘するための人材を派遣するのはどうでしょうか?
魔法石を発掘する際、凶暴なモンスターと出くわすこともあるでしょうし、だったら戦闘員も派遣することもできますし――」
その王女の言葉が、この場の空気をガラッと変えた。
「なるほど…………
確かに、あなたの国には技術もありますし、戦闘能力も高い。
そんな国から援助を頂く代わりに、輸出の量を増やす……
良い提案ですね、承諾致します」
隣国の王から承諾を得られた。
その事実を、周りにいる側近が受け入れられていない。
また、それと同時に、この国の王女の手腕を高く評価するのであった。
―――――
会談が終了すると、王女は護衛とともに豪邸へ戻る。
………………なのだが、移動手段である馬車の準備があるみたいなので、備え付けの待合室にて、準備が終わるまでを過ごすことになった。
「へぇ〜、やるじゃんアリス」
「お兄様、貴方は私の側近なのです。
言葉遣いは改めた方が良いのでは?」
「へぇへぇ、わりぃな」
待合室には、アリスの兄であり、先程の会談にも側近として同席していたレリアの姿が。
他にも側近は3名ほどいるが、その全員は馬車の準備や会談内容の確認やらで忙しいそう。
なので、アリスとレリアだけが、この待合室にいる状態、というわけだ
「しかし、お前があんなこと言うなんて思いもしなかったよ。
せいぜいお前は胸がデカいだけで人気がある王女様なのかと思ってたが、しっかり手腕も持ち合わせてて安心したぜ」
「お兄様、私を褒めていただくのは構いませんが、胸がデカいなど、そういった下品な発言はやめていただきたいです。
王族として、あるまじき姿かと」
実は、アリス王家で女性が生まれると、なぜか胸がデカくなるという謎の法則が確立されている。
だからか、胸がデカい女を王にする風習が生まれたやらなんやら……。
……しかし、そのせいで、王家で男が生まれると王になれない。
だからこのレリアは、王女アリスの側近になっている、ということになる。
「しかし、会談が長引いたから夜だな……
今から帰っても逆に危ないんじゃないか?」
夜。
それは最も殺しの多い時間帯。
暗闇から突如として現れ、人を殺し、また暗闇に消える。
そんな一番警戒しないといけない時間帯に帰るのだろうか。
それは、アリス自身も思っていることだ。
しかし、そんな不安はすぐに解消された。
「すいませんアリス様。
馬車の車輪が壊れておりまして………
………今日には直りそうにないので、近くの宿で一夜を過ごしてもらうことになりそうです…」
何かに恐れるように、頭を下げながら言うが、アリスはこう返す。
「いいえ、謝ることではありませんので。
壊れているなら仕方がありません、
今日はその宿で過ごしましょう」
逆に車輪が壊れていなかったからそのまま帰っていたのかと思いながら、その宿に向かうことに。
宿と言っても、ここは王都なので、最高級と呼ばれる造りにはなっている。
言ってしまえば、アリスの住む豪邸とも大差ない。
なので、一夜過ごすだけなら別に良い、という精神なのだ。
―――――
「では王女様、ゆっくりとご休息くださいませ。
同部屋にはレリアも配置いたしますのでご心配なく」
「そうですね、お兄様が居られるのなら安心です。
それでは………」
アリスは護衛のために同室するレリアと共に、この宿の部屋の中に入った。
会談した場所から徒歩2分ほどで着くこの宿は、実に王都らしい造りになっている。
まず、ベッド。
見ただけで分かる高級な羽毛布団に、フカフカの枕が備え付けられている。
そして景色。
ベッドの近くにある窓からそれを覗けば、その素晴らしさが分かる。
まだ活発な王都のカジノなどの照明でほのかに照らされ、ずっと見ていたくなるような景色が構成されている。
「………はぁ、疲れましたわ……………」
早速そのベッドに飛び込み、そう呟く王女。
しかし、この光景にレリアは睨む。
「その服で寝転んじゃダメだろ……
王族としてあるまじき姿なのはどっちだ?」
レリアが睨んでいた理由、それはベッドに飛び込む格好だ。
ちゃんと寝る用の服は用意されているので、それを着ろということなのだろう。
「分かりましたよお兄様…………」
こんな清楚で完璧で美しい王女にも、こういう姿があるのかと、レリアは少し感じる。
「お兄様、服を貸してください
早く寝たいので」
「分かったよ……………
………で、早くその口調をやめたらどうだ?」
「……そうですね、もう二人きりなのですからね…」
結んでいた髪を解き、一呼吸おいたアリスは、まるで別人のようになった。
「おにぃちゃん、服、着替えさせてちょ〜だい」
「……やっといつもの感じになったな」
清楚で完璧で美しい王女、そんな彼女には、兄であるレリアにしか見せない一面があった。
幼児化、というべきだろうか。
大人な雰囲気から一気にロリっ子に退化。
………いや、進化というべきか。
そのようにロリっ子になるのは、本人曰くストレス解消のためらしい。
また、普段から甘えられなかった兄に対しての愛情表現でもあるらしい。
そして、その甘えを実行するため、2年前くらいから兄と同室になることを強く希望していたそう。
「おにぃちゃん、聞こえなかったの?
着替えさせてちょ〜だい?」
「はいはいロリっ子な妹さんよ……
…………って、そんなことしたら普通に怒られるぞ。
他の側近の人にも、なんなら国民にも」
可愛い妹が「着替えさせて」と言えば、間違いなく世界の兄者共はその通りに従うだろう。
だが、ここのレリアはそれができない。
妹が王女という身分であるため、密接に関わるのが禁止されているからだ。
…………まぁ兄妹だし、ある程度は良いんだけども…。
「えぇ〜、えっちな妹を着替えさせない兄なんてこの世に居る〜?
まぁ、そういうおにぃちゃんも好きだし、いっか」
アリスがその場で着替え始めたので、レリアはそっぽを向く。
アリスがそれに対して不満気な表情をしているが、兄にはそんなものは届いていない。
そのまま着替え終わると、アリスは着替え終わった服をレリアに渡し、またしもベッドに飛び込んだ。
「へへ〜、えっちな妹ちゃんの使用済みの服だよ〜?
匂いとか嗅がなくていいの〜?」
「使用済みって言われたら確かにエロいが、俺はお前をそういう目線では見てないから興奮しない
てか、好きな人の服でも匂いは嗅がないだろ」
「えっ、おにぃちゃんって独特な感性してるね」
「俺が普通だろうよ……」
レリアが全人類を敵に回すような発言したのはさておき。
アリスは、自分が寝転ぶよこをポンポンと叩き、こっち来てとアピールしている。
「おにぃちゃん、一緒に寝よ〜」
「何でだよ、ベッドは2つあるだろ?
………まぁ、寝ても良いけどさ…」
確かに、ベッドは2つある。
しかし、可愛い妹の願いだ、と自分に言い聞かせ、渋々レリアはその叩かれた場所に寝転がった。
「わ〜い、おにぃちゃんカッコいい〜」
横に来るなりレリアに抱きつくアリス。
その姿は、まるで付き合いたてのラブラブカップルのようだ。
「アリス、明日も早いんだから寝たほうが良いんじゃないのか?」
この場面を楽しむ気のないレリアに、アリスは冷めそうになるが、今まさに気を取り戻した。
「………そうなんだけど…」
少し言いすぎてしまっただろうかと、レリアは焦るが、そんなに気にする必要はなかったとすぐに気がついた。
「おにぃちゃん、私、おにぃちゃんとの子供が欲しい」
「おい」
とんでも発言を交わす妹に、レリアは呆れている。
「なぁ妹よ、会談も終わってこれから外交関係をさらに深くするために遠出しなきゃいけないっていう大事な時期に、お前は兄との子作りに励む気か?
てか、子供ができたなんて知られたら、国民からの支持なんてガクッと下がるぞ」
「大丈夫だよ、デキても中絶手術はするから――」
「いや、そもそも中絶手術するってなったら、どうせ他の側近にバレるんだし、なんなら肉体関係を持ったなんて知られたら、俺は解雇間違いなしだぞ?」
「えぇ〜、みんな意地悪」
「お前が意地っ張りだよ」
ヘンテコな会話は続き、気付けば部屋に入ってから1時間経った。
しかし、アリスは眠くなってきたのか、段々と口数が少なくなっていった。
「おにぃちゃん、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
このまま眠りに入る…………かと思ったが、そんなに甘くない妹であった。
「おにぃちゃん、キスしていい?」
「………………………何言ってんだ」
妹からの愛情表現を、素直に受け入れない兄。
そんなレリアは、どれだけ罪深き者なのだろう。
「……もう寝るんじゃ…………って、何で唇をこっちに近づけてるんだ………っておい!」
ほんの一瞬、互いの唇と唇が交わされる瞬間があったが、それでは物足りないのが妹。
「……ハァ…ハァ………おにぃ………ちゃん……
………愛し………てるよ………」
「早く寝ろガキ」
「えぇ〜、じゃあ、寝てあげるための条件がある」
「一応聞いてやろう」
さらに抱きしめる力を強める妹は、一体何を求めてくるのだろうか。
そうレリアは考えながら、妹からの返答を待つ。
「おやすみのチュー、してくれない?」
口を布団で押さえながら、小さな声でそう呟く。
そんな一言を聞いた兄は、そんなことならと、優しく唇を近づけた。
「うぅ、おにぃちゃん……」
近づく兄の唇に、興奮が増す妹。
本来ならレリアは、「おい」などと言って一蹴するだろうが、早く寝てほしいのか、今はそんなことをしない。
―そして、互いの唇が交わされた―
「……じゃあ、おやすみ、アリス」
互いに頰を赤らめるが、そのことには触れない。
あと、キスした際にアリスが舌を舐めてきた気がするが…………その話はしないでおこう。
―――――
「………てください…………………きてください………
…………………起きてください、王女様」
側近が部屋に入ると、真っ先に王女様を起こす。
しかし、そんな王女様の頭の中は真っ白だ。
それは、前夜は兄と同じベッドで寝たので、その兄との密着的な関係がバレるのを恐れているからだ。
しかも、ただの兄妹ではなく、王女とその側近という関係であるということを忘れてはならない。
超えてはいけない一線があるのだ。
「ありがとうございます……
…………ですが、本当にレリアとはそんな関係ではなくって………その…………」
「………何をおっしゃっているのです?
それより、ご朝食の準備ができましたので、レリアと共に来てもらってもよろしいですか?」
その言葉に、アリスは一瞬戸惑ったが、隣をふと見れば納得した。
そう、アリスが寝ている間に、レリアが隣のベッドに移動するという大ファインプレーをやっていたのだ。
大した兄だと感心していると、兄からは指でグッドのポーズが作られる。
そして、アリス達を起こしに来た側近は部屋から出ていったので、また兄と二人きりの状態に。
「お兄様、朝食へ参りましょうか」
「いや、なんかお礼とかないの?」
「…………ありがとうございます、お兄様」
「お前、警戒してるな……
まぁ良いけどさ」
ベッドから降り、身支度を済ませ、万全の準備を終え、いざ朝食へと向かおうというところで、レリアが部屋を出る直前にこう言った。
「今日も清楚で完璧で美しい王女を演じてくれよな」
兄妹の表情が、一気に明るくなるのだった。
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