第3話

 ええええええええええええ⁉︎


 なんかよくわかんないけど、翔太君が告白されちゃった!


 どうしよう、こんなことになるならさっさと告っておけばよかった……。


 渡ろうとしていた信号が点滅し、赤に変わった。


 ……本当、こんな状況にならないと焦ることができないなんて、私どうしようもないな。


 幼馴染なんだし、告る機会なんていくらでもあったのに。


陽乃蔭ひのかげ君、結局この子とどういう関係なの?」


 今はとにかく、それが知りたい。メンヘラ彼女みたいにな言い方をしてしまったからか、翔太君は苦笑を浮かべた。


「コイツ、朝……クラスメイトをいじめてたんだよ。で、俺が……止めた」

「はい、華麗に解決した先輩の姿にときめいちゃったのです!」


 ――ああ、だから翔太君、歯切れが悪かったんだ。


 あの時のいじめは酷かったもんね。


 君は自分に重ねて、止めたくなっちゃったんだ。


 辛かったね。


 でも大丈夫。あの時君が側にいてくれたように、今は私が君の側にいるから。


 ずっと。


「翔太君、みるくお姉さんと早く楽しいことしよ?」


 今度は私が、君を救ってみせる。


 いじめっ子の近くになんていさせない。


 翔太君は少し戸惑ったようだったが、すぐに私の意図を理解してくれたのか、頬を緩ませた。


「……ああ。みるくお姉さん」


 そして、彼の手を掴んだ。


 まだ恋人繋ぎはできないけれど、思いっきり強く握りしめる。


「あなたみたいな子供じゃ、お姉さんには敵わないよ。ごめんね諦めて。それじゃ翔太君、行こう」


 信号が青に変わる。


 私と翔太君は駆け出した。


 今日はこのまま彼の家に行こう。


 なんだか抱きしめてあげたい気分だった。


 きっとそんなこと、いざやろうと思ったら勇気が出ないのだろうけど。


 追ってくる気配がなかったので振り返った。


 小山内おさないさんは信号の向こう側で、呆然と立ち尽くしていた。



 ……へっ、勝ったぜ。


 ***


 みるくお姉さんと一緒に俺の部屋に入った。


 多忙な両親と運動部の妹のお陰で、この時間帯は家に誰もいない。


「ねぇ、翔太君。楽しいことしよっか」

「はい?」


 ベッドに制服のまま寝っ転がっていると、みるくお姉さんが近づいてきた。


「楽しいことって……それは小山内から逃げるために言ったことじゃ?」


 みるくお姉さんが俺以外の前でお姉さんになったのは初めて見た。ちょっと手とか震えてたし、あの場から立ち去るために無理をしてくれたんだろう。


 お陰で上手く小山内から離れられたし、感謝だ。あの告白への対応は正直面倒だった。


「そうだけど、嘘を言ったつもりじゃないのよ」


 やけに妖艶な口調で言いつつ、みるくお姉さんが上から顔を近づけてきた。整った顔立ちに、きめ細くて綺麗な白い肌。長い黒髪が垂れ、俺の顔に当たる。


「みるくお姉さん……?」

「楽しいこと、始めましょ」


 彼女の手が、自身の胸元へ向かった。いつの間にか上着は脱いでおり、リボンも取られていた。


 慌てて声をかける。


「ちょ、どうしたんだよ」

「どうもしてないわ。溜まってるだけ♡」


 第一ボタンが外される。すると制服が緩んだことにより、巨大なおっぱいがずしっとこちらに落ちてきた。


 めちゃ重い。


 下を見れば、垂れ下がる二つのどデカい物体と、それを支える布が見えた。


 今日はやけに責めてくるな……。


 遊びとはわかっていても、これは流石に鼓動が早まってしまう。


 おねショタごっこなわけだけど、俺はどんな反応をするのが正解なのだろう。


 きっとみるくお姉さんはショタっぽく慌てふためくのを期待しているんだろうなぁ。


 でも、ちょっとそんな気分にはなれなかった。


 それどころじゃなかった。


 無理やり冷静ぶって言う。


「姉崎、無理すんな……」

「……ちょっと、素に戻らないでくれる?」


 結構本気で睨んできた。


「いや、だってお前……顔真っ赤じゃん」

「そんなわけ……」


 気づいてなかった様子。俺は手を伸ばし、ベッド隣の机から鏡を取った。


「ほら見てみなよ」

「…………無理なんか、してないし」

「いや、どうみても……」

「ゆ、夕日のせいですー! 夕日の照り返しですぅー!」

「そ、そう……」


 その割に、彼女はしばらくこちらに顔を向けてこなかった。


 ***


 電気を消し、私は布団に潜り込んだ。


 すると、夕方の出来事がフラッシュバックしてきた。


 思わず頭を抱える。


「ばか、なんで私あんなことを……!」


 翔太君の前でおっぱい晒して押し付けて……何やってるだ私は。


 まぁ、密着できた喜びが無かったといえば嘘になるのだけど、いくらなんでもやりすぎてしまった。


「……しょうがないじゃん」


 枕に顔を埋める。


 小山内さんに告白なんかされちゃったから、私だって積極的にならざるを得なかった。


 そうしないと、不安でしかたがなかった。


 彼の顔、よく見ると昔と変わってなかったなぁ。


 ずっと見ていたかった。


 そんな記憶の彼が、私を気遣うように微笑んだ。



 ――いや、だってお前……顔真っ赤じゃん



「ああ、もう!」


 布団をはねのけて、天井を見つめた。


 何よ、照れてたって良いでしょ? 君だってちょっと動揺してたじゃん! サキュバスみるくお姉さんにあんなことやこんなことされたくないの⁉︎


 すぐに冷静に戻りやがって!


 鏡なんて見なくてもね、わかってるんですよ自分の顔が真っ赤だってことくらい、ええ。


 ……なーんか自信無くしちゃったな。


 私の魅力って、彼の理性に簡単に負ける程度のものなのかな。


 これじゃあ小山内さんに勝てそうにない。


 彼女がもし本気を出したら翔太君は……。


 お願い、行っちゃわないで。


 壁一枚挟んだ向こうは、彼の部屋だ。


「翔太君!」


 苛立ちと切実な願望を込めて、壁を蹴りつけた。


 きっと、快眠している彼も目を覚ましただろう。


 ***


 休み時間、俺は少し気になることがあって隣の姉崎に問うた。


「なぁ、昨日の夜中、すごい物音が聞こえてきたんだけど知ってる?」


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