ラスボス予定の悪役に転生したけど、とりあえず最強になって人生を謳歌したいと思います。

@HaLu_

第1話 ラスボス予定の悪役に転生してしまった

『カデリア・クロニクル』


 舞台は剣と魔法の世界。はるか昔に魔王が現れ、1人の勇者が見事に打ち倒したという伝説が残る異世界。その世界のカデリア王国という大国には世界有数の学園「カデリア魔法学園」が存在する。15歳から入学を許可され、様々なことを学ぶことが出来る。剣や魔法は勿論の事、商いや鍛冶。医療や勉学。何を学ぶのも自由。


 そのカデリア魔法学園に通い、数多の苦悩をヒロイン達と乗り越えてカデリア王国の歴史に名を刻む人物となる事を目標としたギャルゲー。それが『カデリア・クロニクル』なのである。





 そのゲームにおける主人公のライバルであり、力に溺れて闇堕ちラスボスになる悪役は『ギルバート・ヴァーミリオン』。ゲーム中でも嫌というほど見てきた悪い奴。燃えるような赤い髪に恵まれた肉体と才能。逆らう者は全て力で捩じ伏せる最強の男である。




 で、そんな男に転生して前世の記憶を思い出し、これから先の事をどうしたものかと悩んでいるのが今の俺なのである。


 ギルバート・ヴァーミリオン。現在10歳。

 騎士の名門ヴァーミリオン家に生まれ、その才覚は歴代最強との呼び声高い王国騎士団長の父、リアム・ヴァーミリオン以上……なのだが、リアムとの仲はとんでもなく悪い。というのも父のリアムは強かったが故に家に帰ることは少なかった。


 ギルバートの母が病に伏してもなお、リアムは国を守るばかりで家庭のことは省みなかった。そして2年前に母が病死すると、ギルバートはそんな父を恨み、彼の名声に泥を塗るかの如く反抗するようになった。リアムもリアムで負い目からかギルバートと対話が出来ず、溝は深まるばかりだった。



 その結果としてグレまくり、ゲームで最終的には父を手にかけ、挙げ句の果てにラスボス化。なんとも言えない結末だ。


「どーすっかなぁ………」


 しがないフリーターだった前世では考えられないほどに柔らかいベッドに横になって考える。まさかギルバートにこんな過去があったとは思いもしなかった。だが父との仲をそのままにしておくのも良くない。シナリオ通りに進んでしまえば俺は主人公達に殺されてしまう。そうでなくてもこれから先も生きていくのに苦労するのは目に見えてる。親ってのは大変で、大事な存在なんだ。まだ子供のギルバートには分からないだろうが、俺はそのありがたみを痛いほど理解しているつもりだ。



 それに……ギルバートになったからにはやってみたいこともある。ゲーム中のギルバートは訓練などを一切せずに学園でもトップクラスの実力者だったわけだ。才能だけで生きていたといっても過言ではない。


 じゃあそんなギルバートが努力すれば一体どれほどの実力を手に入れられるのだろうか。ゲームのシナリオ通りなら6年後には魔王が復活する。それまでに実力をつければ闇に呑まれることもなく魔王を返り討ちに出来るのではないか。


「やってみてぇ……」


 恵まれた才能を思う存分鍛えてみたい。欲を言えばチヤホヤされたい。正直に言えばモテたい。顔は怖いけどイケメンだし…家名を落ちぶれさせたいとか、世界を滅ぼしたいなんて願いよりマシだろ。





 そしてこの世界の元になったゲームにはバージョンが2種類ある。1つは普通のギャルゲー。戦闘難易度が簡単な一般向け。こちらでも充分人気があった。


 そしてもう1つはR18パッチ導入のバージョンだ。こちらはヒロインとのベッドシーンまで描かれるが、その代わりにヒロインの敗北エロが増える。魔物や悪い奴からのレイプにリョナに四肢欠損に……開発の性癖が存分に発揮されている。

 戦闘難易度も通常版より高く、やり込み要素も多い。その完成度の高さはおまけとしてエロがあると言われるくらいだ。


 開発の話によれば「通常版でも裏ではこんなことがあってる」らしい。つまりR18版の方がこの世界の本質に沿っているというわけだ。


 ゲームでは主人公やヒロイン達は何度か危険な場面に遭遇することになる。そのうちの何個かはギルバートが犯人だったりするが…今は置いておこう。俺にそんな趣味はないからな。

 とにかく、主人公がヒロイン達を助けられればそれで良い。だがもしもの時はヒロイン達は目を覆いたくなるような酷い目に合う。それだけは阻止したい。



 …まぁ要約するに強くなりたいって話だ。悪いけど俺はハピエン主義者でな。皆で揃って学園生活を謳歌したい。いくらなんでも同じ学年から死人が出ましたなんて夢見が悪すぎる。


 やれることはやりたい。それだけだ。





 というわけで魔法学園の入学まで5年もある。それまでに鍛えて鍛えて鍛えまくるとしよう。というかそれくらいしかやることがない。前世と違って暇すぎるんだ。




 そうしてギルバート・ヴァーミリオンとして新しい人生を送ることを決めた俺は、最初の「やれること」をするため、父親のいる書斎へと朝っぱらから向かうことにしたのだった。



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