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 *


 その後。


 出来上がった原稿を読み直して、つい笑ってしまった。


 なんだ、これは。


 酷い出来であった。


 まるで、新人賞に応募する作家が、連作短編覚えたての時に書くような、そんな物語であった。


 もっと現実らしく現実を描けば良いものを、都合良く虚構を織り交ぜたせいで、物語が台無しになっている。


 そもそも、各章の登場人物は救われてもいない。


 初稿で登場させた飯島という救済主の人物を抹消したのだ、当たり前である。


 私の力だけでは、彼ら彼女らを、どうすることもできない。


 人の芯までに届くような言葉を、伝えることはできなかった。


 でも、虚構なら。


 物語なら。


 私には、できる。


 伝えることが、できると思ったのだ。


 いや、いや、いや。


 彼らがこの文章を読む可能性は極めて低い、むしろ生涯目にしない確率の方が高いだろう、余計なことを期待しても無駄で、結局現実という巨怪に飲み込まれるしか彼らの運命はないのかもしれない、きっと編集の地引氏も、あまりの展開の変更に卒倒を起こすかもしれない、怒られるかもしれない、改稿させられるかもしれない、要求されなくとも仕事自体を降ろされるかもしれない、小説業界を干されて作家生命に瑕疵きずが付くかもしれない。


 それは、了解している。


 分かった上で、私は。


 この文章を――物語を擱筆かくひつする。


 私も。


 逃げなかった、と。


 伝えたいから。




(最終話「了解」――了)

(「精神感冒 淡雪」――寛解かんかい



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精神感冒 淡雪 小狸 @segen_gen

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