第11話最終話

「僕たちも牢へ行こう!楽しみだ」


 私は死神に手を引かれてノーラの後を追う。ノーラは涙を流し、震えながら騎士達に連れられ貴族牢にまた入れられた。彼女は抵抗する素振りはない。


「騎士様っ、出発はいつになるの?」


騎士の一人は何処かへ確認しに行ってから戻ってきた。


「出発は明日の朝の予定です。それまでは静かに過ごして下さい」

「うぅっ。有難うございますっ。マノア嬢の回復を願いなら過ごしますわっ」


 騎士達はノーラの涙する様子を見届けて牢を去った。

 ノーラはというと、人の気配が無くなったと思ったのかベッドへ勢いよく座った。もちろん死神も私も彼女の目の前に立っている事は気づいていない。


死神はニヤニヤと笑い、彼女のしでかしを待っているようにも見える。


「はぁ、疲れた。本当に男って馬鹿ばっかりよね。チョロイわ。明日には北の修道院か。途中で御者を落としてどこかの村で逃げればいいわね。美人って得よね。

この顔を利用すればお金に困らないわ。とりあえず逃げてどこかの街に騒動が落ち着くまで身を潜めた後、金持ち息子を捕まえればいいわ。

それにしてもいい気味だわ!あはははっ。あの女は馬鹿よね!あれだけアランに嫌われているっていうのに!あー大馬鹿。思い出しただけでも可笑しいわ。あの女、カマトトぶって大っ嫌い!金だけもって、親に守られて悲劇のヒロインぶって!あの女は早く死ねばいいのよ。

私を牢に入れたあの女は絶対に許さない。あの女も家族みんな殺すしかないわね。その前にどこの村で馬車から降りようかしら」


 先ほどのか弱い素振りが嘘のように悪態を吐いている。家族を殺す?なんて酷い人なんだろう。自分の行いで捕まったのに私のせいだなんて。


「クククッ。はははっ。マノア、見てごらんよ!傑作だね。いやー人間ってやっぱり面白いよね。悪魔より悪魔らしいね」

「ねぇ死神さん、ノーラは私の家族を本当に殺す気でいるの?」

「……そうだね。このままでは、家族全員殺されるだろう。アランも伯爵家も、ね。ほらっ君が消える前に見せてあげるよ。特別ね?」


そう言って持っていた本を私に見せた。


……三年後に隣の領地から攻められて侯爵家全員殺され、助けに入ったピシュノヴァー伯爵家も一家で死亡と簡潔に書かれてある。だが、文字は薄らとしている。手引きしたのは、ノーラ?


「詳しい未来は教える事が出来ない。だけど、ノーラは関わっているだろうね。あー惜しいな。君は何も出来ずに死んでしまう。

家族は罪もないのに首を切られるんだろう。君を思ったままアランは矢に打たれるのかな」

「死神さん、文字が薄いのは何故?未来は決定していないという事なの?」

「そうだね。考えてごらんよ?本来、君は死ぬ予定じゃなかった。けれど、君は確実に死に向かっている。君が死ねばこの未来が確実になるんじゃないかな?」


死神はどこかウキウキしている。何かを待つように。


「私が、死ねば……」


家族も死ぬ。嫌よ、死にたくなんかない。


家族にも死んでほしくない。ピシュノヴァー伯爵家の人達だって。悪い事なんて何もしていないわ。嫌よ。何も出来ないで死にたくなんてない。消えゆく手を見てどうにかしたいと願う。生きたい。涙が止まらない。


「あーあ。牢ってつまんないわ。アランと結婚するのもあと少しだったのに。全部あいつのせいだわ。次、アランに会ったらどうしようかしら。逃げられないようにして愛玩道具にするのがいいかもー。一生私から離れられないようにすればいいわね」


聞こえてきたノーラの言葉に私の中の何かが壊れた。


「死神さん、私の死とノーラの死を交換して!」


死神は待っていましたとばかりに飛び上がった。


「いいんだね?クククッ」


 死神は嬉しそうにそう言うと、羽ペンをどこからか取り出して何かを本に書き加えた。すると、本が光り始めると同時に私はとてつもない力に引っ張られる。心が身体に引き戻されているようだ。


「死を交換した。さようならマノア!君の残りの人生に幸あれ!」


死神の声が遠くに聞こえた気がしたわ。








「……ここは私の部屋?」


目を開けるとそこにはいつもの風景が視界に飛び込んでくる。


「お嬢様!!!」


 どうやら私は無事に自分の身体に戻ったみたい。


私の代わりに彼女は死んだのね。


 何とも言えない罪悪感が心を締め付ける。けれど、部屋に入ってきた父や母、兄の姿を見て強い気持ちを持つ。


後悔はしないわ。


これで良かったのだと。

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