第10話
「マノア・クオッカネン侯爵令嬢へ毒を盛った事、王宮のお茶会を混乱させ中止にした事。ノーラ・サンドス男爵令嬢、申し開きはあるか?」
騎士がノーラに向かって話をすると、彼女は間髪を容れずに涙を流しながら答えた。
「違うんですっ。私は騙されたの。毒はマノア嬢が私に持たせたものだったんです。当日、彼女の侍女から手渡されました。
マノア嬢が忘れ物をしたので渡して下さいって。私はお茶会の時に薬を渡しただけなんですっ」
「その侍女はどんな侍女か?」
「そ、それは、黒髪で髪を纏めていて……」
「ふむ。では確認してみよう」
「クオッカネン侯爵、彼女はそう言っているが?」
どうやら父はノーラが部屋に入った後にそっと入って様子を見ていたようだ。父は軽蔑するような冷たい視線でノーラを見ている。
「残念ながら、マノアに付けている侍女に黒髪はおりません。それにマノアは薬を飲むような病気も怪我もない娘でした。毒が盛られるまではね」
「……そっ、それは、私にマノア嬢の侍女と言っていたからっ」
ノーラは慌てて言い訳をしている。
「おや?馬車から会場まで誰も貴女に声を掛けた人はいなかったはずですが?」
確か王宮のお茶会は馬車乗り場から令嬢一人一人に警備も兼ねて騎士がエスコートしている。不審な者がいればすぐに分かるはずよね。
「それに、連れの男はさっさと自供しましたよ?貴女が犯人であると」
騎士はにこりと微笑みながら目は笑っていない。ノーラは言い逃れは出来ないと思ったのか下を向き、震えている。と、思った瞬間。
「……わ」
何かを発した。その様子を周りはじっと見つめている。
「聞き取れなかった。もう一度言ってください」
「ええ。私がしたわ。だって、アランを愛しているもの。誰にも取られたくなかったのっ。私だけを見て欲しかったのっ。
アランだって結婚したくないといつも言っていたし、父はお前が伯爵夫人になれ、アランに迫るようにいつも言われていたの。だから、仕方なく」
ノーラはか弱く泣きながらそう自白した。泣き落としを使うようだ。騎士は疑うような目をしている一方でノーラの泣き顔に同情しているような感じがした。
「取られたくなかったからと毒を盛ってもいいのか?相手を殺してもいいと思っているのか?わざと複数の毒を混ぜたんだろう?そんなに娘が邪魔だったのか。私の娘は、殺されるために育ててきたんじゃない」
父はノーラの仕草に苛立ち、声を出した。
「侯爵っ」
騎士がすかさず止めに入った。そして今まで黙っていた王妃様が口を開く。
「騎士団長よ、もうよい。王家が主催する茶会で毒が使われた。それも男爵令嬢如きが自分より爵位の高い令嬢を陥れるために。随分と私を虚仮にしてくれたわね。女の嫉妬ほど醜い物はないわ。その涙に騙される男もね」
王妃様は騎士団長に厳しい視線を向けている。王妃様の一言で騎士団長はグッと口を閉じ、動く気配はない。しまったとでも思っているのかもしれない。
「ノーラと言ったわね。お前のした事は泣いても許される事ではない。北の修道院へ。男爵は爵位を剥奪。男爵の持ち物全てクオッカネン侯爵への慰謝料に当てる。ノーラは修道院への準備が整い次第送るように。侯爵、異存はないかしら?」
「……ございません」
「では騎士団長、そのように手配しなさい」
「ハッ」
騎士団長は王妃様に敬礼をした後、部下にノーラを牢へと戻すよう指示をし、父も帰宅する事になった。
「マノア、どうだった?ノーラの態度や絆されそうな騎士団長の様子が消化しきれていないみたいだね。罪はまぁ、妥当といったところかな?」
死神は顎に手を当てて私を分析しているような態度だ。分かっているくせに意地悪な死神だわ。
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