第3話 オレたちの戦いはこれからだ!
オレが異世界転生でアザラシとなってから、早くも半年が過ぎ去った。
その間、オレは岩場を死守するために、襲い来る様々な海獣たちと闘った。
時には傷を負い、食われそうになりながらも、可愛らしい姿とつぶらな瞳で見つめることで相手の攻撃を躊躇させるギフト能力のお陰で、ピンチを切り抜けて生き延びて来れたのだ。
転生の女神はクソアマだったと今でも思っているが、これだけは感謝してやっている。
そして今日は平和で天気もよく、岩場の上でゴロゴロとのんびりくつろいでいたのだが。
「な、なんじゃこりゃあ!」
天から一筋の光が降りてきて、それに包まれたかと思うと、オレの身体は吸い込まれるように登っていく。
そしてブワッと加速すると目の前が一瞬真っ暗になり、次の瞬間にはどこかの広い部屋の前に居た。
「おおっ、勇者よ、よくぞ参られた! そなたにはこの世界を牛耳る海獣魔王を倒してもらいたいのだ!」
は!? 何言ってんだコイツ。
オレの眼の前で玉座に座り王冠みたいなのを頭に被っているオッサンがわけわかんねーことを言ってきた。
しかし戸惑うオレに構わずにオッサンは事情を語り始めた。
「この世界は海が9割方を占め、僅かな陸地に築いた文明で人類は細々と暮らしておるのだが……近年、唐突に海獣魔王と名乗る魔物が現れ世界は蹂躙されたのじゃ」
ふーん、それがどうかしたのか?
オレにはなんも関係のないことだ。
「そこでじゃ。異世界より転生せし者たちが海獣と成りて世界を救うであろうという古くからの言い伝えに従い、こうやって転生者たちを勇者として召喚したのです!」
げぇっ!
今さら勇者召喚とかやめてくれよ面倒くさい。
こちとら今や海獣として生活基盤を築いてるんだ。
それにだな、可愛らしいアザラシのオレが一人で何ができるっていうんだよ?
ここはキッパリと言っておかねば。
「キュー、キュー!(冗談じゃねえ、お断りだコラ!)」
「……今、勇者様はなんと申されたのだ、通訳」
「えー、『勇者に選ばれたことを大変光栄に思う。是非とも海獣魔王の討伐に行かせてください』と申されております、王様」
「おおっ、なんという勇気と優しさに満ち溢れたお言葉。それでは早速準備を整えましょうぞ」
おい待てやコラ!
オレが言ったことを一つも正確に翻訳できてねーだろうが!
「キュー!(行かねーっつってんだろ!)」
「『ご安心ください、この私にドンッ! とお任せあれ』と申されました」
「素晴らしい! これほど頼りになるお方が勇者に選ばれるとは。我ら人類の命運はまだ尽きてはおらなんだ」
どうなってやがる。
言えば言うほど事態が悪化していくじゃねーか!
ここは兎に角逃げ出そう。
オレは急ぎ足で部屋の外へ……といきたかったが、アザラシなので地上では腹這いでしか進めないのだった。
「勇者様、早速旅に出ようとなさるとは、既にヤル気満々ですな。ですがしばしお待ちくだされ。冒険の仲間となる転生者たちも既に控えておりますぞ」
仲間だと?
それを早く言えってんだ、戦いはそいつらに任せてオレは高みの見物といかせてもらおう。
そして敵の海獣を倒して得られるカネやアイテムは勇者のオレが全て頂く……悪くねえ。
よっしゃ、それでいこう。
オレは急いで王様のオッサンの方に向き直した。
「キュ、キュー(良かろう、オレが海獣魔王をブチのめしてやるよ)」
「……『それはいいが、報奨は弾むんだろうな?』と申されております」
「これは失礼いたした。もちろん用意しております。海獣魔王を倒したあかつきには、我が国で最高の栄誉である英雄勲章を与えましょうぞ。それだけでなく、お似合いの若い雌アザラシを見繕ってあげましょう」
いや、どっちもいらねーし!
カネか金目のもの寄越せや!
それに全然翻訳が違うから!
頭にきているオレだが、ここで背後に複数の気配を感じた。
「ピィッ!(待たせたな!)」
仲間となる転生者の海獣たちか。
さぞや凄い迫力で見た目にも戦闘力ぶっちぎりって感じの奴らなんだろうな、ワクワクする。
そして振り返ったオレの目に入ったのは……。
ペンギン、アシカ、そしてラッコの3匹だった。
よ、弱すぎる!
こんな奴ら、オレと大して変わんねーじゃん!
こんなんでどうやって海獣魔王を倒せっつんだよ!
ショックを受けて一言も発せないオレを尻目に仲間たちは自己紹介を始めた。
「ピィピィ、ピィ!(俺はペンギンの平助、ヨロシクな!)」
ペン助?
ペンギンに転生するためにつけられたみたいな名前だな。
覚えやすくていいけど。
それはいいけど、そもそもペンギンって鳥類だから海獣じゃない気がするんだが。
「アウッアウッ、アウッ!(あーしはアシカのアッコ、ヨロピク〜!)」
おお、女子の転生者もいたのか。
喋り方はギャルっぽいからまだ高校生のガキってところか。
「キィキィ……キィーッ(ワシはラッコの楽吾郎じゃけえ……よろしゅう頼むわ、ニイちゃん)」
うわあっ、どう見てもカタギの雰囲気じゃねえ。
ラッコの可愛らしい姿とギャップが有り過ぎる。
オレも人の事言えねえが、オレなんかより危険な匂いがプンプン漂ってくる。
貝を割る石を持ってるのはいいが、常に両手で磨いている……なんか◯ットマンが暇さえあれば銃を磨いているみたいに。
「オレはアザラシのゴーマ。まあ、よろしく」
「おう、よろしくな勇者さんよ。それじゃあ早速行こうか」
「えっ? いや心の準備が」
「ゲームみたいで面白そうな展開じゃん、楽しみ過ぎる! とにかく行けばなんとかなるっしょ」
「……ワシは、殺れさえすれば何でもええ」
ひえええ、イヤだ行きたくない!
しかし強引に連れ出されてしまったオレはもう、覚悟をキメるしかなかった。
「それじゃあ冒険に行くか! オレたちの戦いはこれからだ!」
異世界海獣転生 ウエス端 @Wes_Tan
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