美幸は何も、語らない
白川津 中々
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美幸は何も、語らない。
一般的な家庭に生まれ愛情深く育てられてきた美幸はそれまで道を踏み外す事はなかった。一通りの道徳や社会性、常識に彩られた普通の少女であり、本人もそうなろうと努めていた。
美幸の消息が途絶えたのは誕生日の翌日。ケーキを切り分けた次の朝に忽然と姿を消した。懸命な捜索にも関わらず見つからない。巷では両親が殺したのではという根の葉もない噂が飛び交う。二人がどれだけ美幸に愛情を注いだのかもしらない人間が実に愉快そうにそう語るのだ。まるで映画でも観ているかのように!
しかしながら、ものの善悪などは別にして、美幸は死んでいた方が幸福だったのではないかと思える。
失踪から三ヶ月。美幸は突然両親の元へ戻ってきたのだが、その様相は異様そのもの。着ている服はボロボロで血痕が著しい。削げ落ちた肉には無数の傷跡。腕には何本も注射を打ったような痣が見られる。虚となり何を語りかけても反応がない美幸は既に、廃人だった。
医者に診せたところ重度の薬物中毒との事だった。腕の注射痕は麻薬使用のためについたものだと結論づける。
また、医者はこうも言った。「自分で針を刺した可能性が非常に高い」と。
両親はその言葉を聞き自我を失った。暴れ狂い泣き崩れ、とうとう糸が切れたように動かなくなってしまった。ありふれた家族の幸せはもうどこにもない。この先、三人が幸福となる事は永遠に訪れない事は明白だった。
彼女がなぜ突然いなくなり変わり果てた姿となってしまったのかは未だ不明である。全ては藪の中。全ては美幸の証言次第であったが、美幸は何も、語らない。
美幸は何も、語らない 白川津 中々 @taka1212384
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