起床




「あれっ、いつのまにみんな起きてたの!?」



推理刑事が振り向けば、そこにはむくりと夢から覚める警察官たちがいた。

驚いてボクも振り向いてみれば、椅子から立ち上がってあくびをする人もいて、呑気だなと苦笑いする。



「いや、そりゃ椿の爆発音みたいな一撃を聞いたら、起きないわけないでしょう、補佐官。」


「えーーっ!?アラート鳴った時は起きなかったのにーー!!」

「いや、アラート鳴らしたんですか?というか……椿ちゃんまた派手にやったなぁ。」


「ねえねえ、補佐官この子誰!頭にケモ耳生えてるんだけど!」


「あー、この子は……」



いや本当に呑気だな、とビルの階段部分をぶった斬った霧雨さんたちを横目に、頬をかく。


何はともあれ彼らに異常がなくて良かった、と心から思った。


ちなみに、霧雨さんは黒マスクたちに捕まえられていた烏羽さんが階段と一緒に落ちるのをキャッチしたらしく、烏羽さんをこの階に置いてから残党を狩りに行った。

あれだと残党ビルの階段から落っこちて死んでそうだけども。



「あ。えっと、ボクは狗谷アイムです!アサのお手伝い?でついて来ました!」


「へぇ、狗谷アイムくん!僕は春川水理はるかわすいり。春の川に水の理と書いて推理だよ!ふふ、どうか末長く宜しくね?」


「末長くって……あれ、そういやお前何歳?」

「今年で確か16です!」


「エ。高・校・生じゃん!?そりゃ終より年下っぽく見えたけど、まだ高校一年生なんて聞いてない!!これ俺が上から怒られない?!」


「烏羽、リラックスリラックス!君が未成年を頼った時点で長官からは怒られるよっ!」

「どの道最初から俺に逃げ道はなかったんだね!!ガッデム!」



がくりと膝をついた烏羽さんに、ボクは大丈夫かなと背中をさすってあげる。


というか裏社会の何でも屋を警察が頼るのはどうなんだろうか、と改めて思う。

そうして深いため息を吐いた烏羽さんを見て、ふいに眉間に皺を寄せている彼と目が合った。



「?…どうかしました?」


「いや……ただなんか、お前は高校生なのに高校生みを感じないなと思って。最初のやりとりだって俺は嫌味でしか言ってないのに、純粋無垢な顔しちゃってさ。いやこの話はいいや。てかお前、高校行ってる?」


「んぇ。いや、高校どころか中学すら行ってませんけど……」


「はぁ?もしかして不登校?」



そう聞かれて、どう答えるべきか首を捻る。


しかし後ろから頼もしい陰がボクを覆って、真横に立ってくれた。

まだ昨日会ったばかりだが、なかなか心強い人だと改めて認識する。



「コイツの過去を詮索するのはやめろ。お前には関係のないことだ。」

「……クラブに新入が入ったことにも驚いたけど、この子ってまだ年齢的に高校生なんでしょ?そんなにしてまでこの子を匿う理由は何?」


「ハッ、逆になんだと思う?ただ私は、行き場のない子犬を拾っただけだ。」


「行き場のない子犬、ね。」



含みのある言い方をする烏羽さんを見て、ボクはアサに頬をぐいっと掴まれ立ち上がる。


ぐいーっとよく伸びるボクの頬はここまで伸びるものなのかと自分でも驚いたが、彼女からジトーっという視線を感じて、苦笑いをする。

きっとこの二人は少し相性が悪いんだろうなと思った。



「さて、同僚の目を覚ますことは手伝った。しかし肝心の元凶が出てこない。その上であの武器を持った黒マスク集団……明らかに最近また頭角を見せ始めた裏組織ヘル・エンジェルだ。これがどういう意味が分かるか?」


地獄の天使ヘル・エンジェルがわざわざ公安部特異課を攻撃する理由。しかも今回のは間一髪で助かりましたが、大勢の警察職員が危うく殺されるところでした。階段と一緒に落ちた奴らは起きている他の警察官に捕縛するよう向かわせました。もう彼らの問題を見て見ぬふりすることなど出来ないのでしょうか。」


「別に、僕たちは見て見ぬフリなんかして来たわけじゃないはずだよ?ただ今回は部が悪かった。何せあの地獄の天使にサキュバス……いいや、サキュバスと人間のハーフ、カンビオンが手を組んだんだから。」



推理刑事こと春川さんのその言葉に、アサと烏羽さんは眉間の皺を寄せる。


カンビオンという聞きなれない単語に内心首を傾げていれば、どうやら春川さんが説明をしてくれるらしく、ボクたちは黙って聞くことに。



「カンビオンというのはサキュバス、もしくはインキュバスと人間のハーフの子。伝承ではそれはそれは醜い姿をしていたとされ、ある文献によると7歳までしか生きられないとされる。その上で性格は悪逆非道。とはいえもちろん、これは伝説上の記録だけどね。」



7歳までしか生きられない。

その言葉が何故だか少し引っかかって、うーん?と唸る。


しかしそこに引っかかったのはボクだけのようで、どうして春川さんがここまでの情報を持っているのか、怪訝な顔をしていた。



「にしても、補佐官はいつにも増して知ったような口を聞くんですね。前からこのことを知っていたんですか?」


「ま、そうだねっ!僕は長官からこの件について前々から探偵として捜査を任されていた。僕は潜入捜査官じゃないからね、ここまで情報を得るのは大変だったけど……ようやく地獄から来た天使の尻尾を掴めたよ。」



「ほら、おいで。」そう言ってエレベーターの開くボタンを押した春川さんの先に現れたのは、


まだ中学生くらいの傷だらけの少女だった。

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